波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「赦す」

赦すこと難しければ今朝の秋ふかく帽子をかぶり出でゆく

  大口玲子『ザベリオ』 「赦すこと難しければ」P138

 今年最後の投稿になります。一首評には大口玲子さんの歌集『ザベリオ』から。

 

わりと長い時間をかけて『ザベリオ』を読んでいたのですが、なんだか硬質というか、やや難しい印象のある歌集でした。この一首もやや難解な一首。

 

自分の過ちを許すのか、他者の罪や間違いを許すのか。どちらにせよ「赦す」ということは、とても難しいこと。頭でわかっていても、気持ちがついていかないというべきか・・・。

 

ふかぶかと帽子をかぶるのは、わだかまりのある本心を隠すためかもしれません。「秋の朝」などではなく、「今朝の秋」というちょっとひねった表現にも惹かれます。

 

未熟さや幼稚さ、醜さ。いろんな感情を抱えながら、なお、自分が信じるものに忠実。

 

『ザベリオ』のなかには、毎日、息子と向き合い、信じていることのために動いている、そんなひとの姿がありました。 

       

         *

 

今年も「波と手紙」を読んでくださって、ありがとうございました。来年は、歌集評(忙しかったら一首評)をもう少し増やしたいんですけどね。

 

これからもよろしくお願いします。よいお年をお迎えください。

 

松村正直 『紫のひと』

秋空に襞なすごとく雲は伸び思いは北のあなたへ向かう  

  *襞=ひだ       P11


松村氏の短歌のなかでは、「此処にいない人」「ここではない場所」を慕って詠む歌に印象的なものが多い。

高い秋空に広々と広がる面状の雲。「襞なすごとく」は細やかなプリーツみたいな形状の雲の描写であると同時に、人間の内面の気持ちの襞と呼応します。

「紫のひと」は松村正直氏の第五歌集。

いままでとはちょっと違う印象の歌集になっています。

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