波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「火」

虚実皮膜の皮のうちなるあぶらみをしたたらせつつ火を渡りゆく

 *皮膜=ひにく

真中朋久「火を渡る」 塔2022年10月号 P5

先月中にアップしたかったのですが…。遅くなりました。とても面白い歌だと思ったので、ちょっと書いておきます。

 

「虚実皮膜」は、事実と虚構の間に芸術の真実がある、という考え。

 

この歌では、当然、その内容を踏まえつつ、焼肉等、肉を焼いているイメージと重ねているようです。

 

「皮のうちなるあぶらみ」がポタポタ落ちると、下にある炎は鮮やかな色で燃え上がります。

 

虚構と事実、その二つの間を探りつつ、火の熱さを感じつつ、それでも火を渡る。

 

芸術についての考えも少し見せながら、異なるイメージの力も借りてくる。面白い構造の歌です。