波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「正解」

るるるると巻き取るパスタ 正解を知っていながらいつも間違う  

   松村正直 『紫のひと』「正解」P90

 この一首では、食事でパスタを食べているときのシーンをもとにした一首。

 

パスタをフォークで巻き取る仕草を「るるるると」とちょっと面白い描写で描いています。「る」というひらがなの形も、パスタをくるくると巻き付ける様を思わせて、納得してしまう。

 

「正解」を知っていながら「いつも間違う」とは奇妙な感じがしますが、案外、そんなものかもしれない。

 

正しい答えを知っているからといって、必ずそれを的確に選択できるとは限らない。

 

例えば嫌悪感や疑いがあって、あえて正解を選ばないこともあるかもしれない。選ぼうと思えば選べるけど、どうしても選べない、という時もあるかもしれない。

 

この歌のなかでは「いつも間違う」という点が余計に不思議。同じ問題でいつも間違うのか、局面は違うけどいつも間違うのか。

 

フォークにくるくると巻き付けるパスタ、その仕草をくり返しながら続ける食事。いつもなぜか間違えてしまう選択。

 

はまりこんで抜けられない状況を思わせて、同時に人生はそんなものかもしれなくて、食事のワンシーンからもっと深い疑問にまでつながっていく歌です。