遠くから来る自転車をさがしてた 春の陽、瞳、まぶしい、どなた
東 直子「ハルノシモン」『青卵』 P183
遠くに離れた場所からやってくる自転車、とそれに乗っている人。異質な場所からやってくる他者への期待や緊張、希望などがあふれた一首です。
作中主体は自転車に乗っている人がだれなのか、まだ分からない状態にいるらしい。
分からないのは、春の陽射しがまぶしくて、瞳のなかで乗っている人の像を把握できないから。
「待っていた」ではなくて「さがしてた」とあるので、単に待つよりもっと能動的な姿勢です。
自転車でやってくる人物がだれなのか、ある程度の予感はあるのかもしれない。
「春の陽、瞳、まぶしい、どなた」という下の句が魅力的で、陽射し⇒眩しいという感覚⇒「どなた」という問いかけにつながることで、未知のものや相手を知りたいといった欲求を読者のなかにも呼び覚まします。
春の陽射しのなかで出会うだろう誰かの存在の眩しさやかけがえのなさといった、美しさや儚さに惹かれる歌です。