波と手紙

小田桐 夕のブログ。塔短歌会に所属しています。         ゆふぐれはあなたのなかに沈みゆくとほき国だと気づいてしまふ

塔2017年8月号 1

まだ暑いよー・・・

塔8月号から見ていきます。

夏つばき地に落ちておりまだ何かに触れたきような黄の蕊が見ゆ     吉川 宏志 P2

木の下に落ちてもまだ存在感のある夏つばき、

たっぷりとした筆のような黄色の蕊は印象的です。

「まだ何かに触れたきような」が興味深い。

夏つばきの一輪にはまだ美しさや生命力が

残っているように感じます。

地面の色、白い花びら、黄色の蕊といった

色彩が鮮やかに浮かびます。

世の中はなんでこんなにさびしくて私がひとりスーパーにゐる  永田 和宏  P2

河野裕子さんがなくなってすでに7年経つ。

「なんでこんなにさびしくて」という無防備な言い方が

かえってしみじみと悲しい。

「私がひとり」という言い方は

なんだか舞台にたつ役者のような描きかたです。

「スーパー」という毎日の生活のために買い物をする場所という

身近な場所の選択に、とても実感があると思います。

何度目の春でしたっけ筍とセロリをトマトソースで和えて   山下 洋  P3

食べ物の色彩の美しさが印象的な歌です。

筍の白っぽい色とセロリの緑色と

トマトソースの赤色がぱっと浮かんで、

楽しい食卓のシーンが浮かびます。

「何度目の春でしたっけ」は

親しい方への呼びかけと取りました。

たぶんもう長く一緒に過ごしているので、

何度目の春かわからないくらいだけど

今年も同じように春の野菜をトマトソースで和えている、

そんなシーンだと思います。

名を呼べばはいと応へて立ちあがる四月十日のパイプ椅子より  梶原 さい子  P7

入学式かな、と思いますが

「四月十日のパイプ椅子より」がいい表現です。

その生徒にとっては一度きりの四月十日、

ちょっと緊張感のある日を描いています。

百本の白きワイヤー架かる橋春の河口にハープを奏づ   村田 弘子   P14

橋にワイヤーが多くかかっている光景は見たことがありますが、

ハープに見立てるとはダイナミック。

無機質な橋のワイヤーから

美しい音色を奏でる弦楽器に転化する

発想が楽しい一首です。

アン・シャーリー初の誂えのドレスなら葡萄色とおもう春の山路に  山下 泉

 *葡萄=えび   P14 

 

赤毛のアン」に出てくる主人公アン・シャーリー

想像力の豊かさを持っている女の子でした。

憧れのドレスには色も形も大変なこだわりがあったはず。

「葡萄色」という深みのある赤紫色にも

きっと楽しい想像をふくらませたろうな、と読んでいて嬉しくなります。

「春の山路」には「葡萄色」を思わせる植物があったのか、

自然や季節の美しさからアンの「葡萄色」のドレス、

しかもはじめて誂えるドレスへの発想のふくらみが楽しい。