波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

塔2017年7月号 5

お母さん東京は胡麻鯖食べんとよやけん久々に食べたいっちゃん   赤木 瞳     P203 

胡麻鯖は福岡の郷土料理らしいんですけどね。

一首のなかでたっぷりと使われた方言がとても魅力的。

一首がまるごと母親に食べたいものをリクエストするときの

セリフになっていて、親子の会話の空気感がうかがえます。

「ん」で終わる語尾のおかげで弾むようなリズムがあります。

終バスを待つ列の末に泣きゐたる異国の男指ふるはせて   川田 果弧     P205

 たぶんたまたま見かけた光景でしょう。

一見して外国人とわかる風貌の男性が、

指を震わせて泣いている様子に気づいてしまった。

耐えきれずに泣いている原因はもちろんわからないけど、

なんとなく想像させる歌です。

「指ふるはせて」というディティールで

泣いている人の心情を想像させます。

「終バスを待つ列の末に」という場面設定によって

泣いている男性の悲壮感が増しています。

空き地にはタンポポ色のカーディガン誰の心をさらってきたの   深山 静      P208

タンポポ色」という色の表現がよくて、

空地のなかにぱっと咲いたような黄色の鮮やかさがすぐに浮かびます。

カーディガンの持ち主はたぶん困っているかもしれないのですが、

「誰の心をさらってきたの」という問いかけで

とても柔らかい雰囲気の一首に仕上がっています。

泣くまでにもう少し掛かる友のため駅まで歩く花冷えの夜    魚谷 真梨子     P211

友達と一緒に駅まで歩いているのだろう、と読みました。

「泣くまでにもう少し掛かる」という点がとても魅力的で

友達の心情をうかがいながら、

寄り添っている主体の優しさがわかる内容です。

「花冷えの夜」という状況もよくて

もう春なんだけど一時的に冷える夜であることで

一首のなかの空気感が伝わります。