波と手紙

小田桐 夕のブログ。塔短歌会に所属しています。         ゆふぐれはあなたのなかに沈みゆくとほき国だと気づいてしまふ

塔2017年2月号 3

作品2は多いので2回に分けます。

るるるると振れるブランコ掴まえて地にすれすれの空を漕ぎ出す    竹田 伊波礼   P71 

 「るるるると振れる」が面白い表現です。
さっきまで誰かがのっていて、
まだ振動を伝えるブランコでしょう。
「地にすれすれの空」で空間に広がりがある感じがします。
こげば漕ぐほど、空に入っていく感じがするブランコ、
「漕ぎ出す」に勢いがあります。

灯ともさず水のみにくる夕鳥の飛びさるまでがひと恋ふ時間     東 勝臣    P75

夕暮れのなかの鳥を美しく描いた一首です。
「灯ともさず」なので結構暗いのかもしれない。
水を飲んで飛びたつまでの時間が
「ひと恋ふ時間」とは儚い印象。
ちょっとした休息の時間は
素直な感情が出る時間なのかもしれないですね。

紫蘇の実をしごきて灰汁の染みる指箸もつたびに匂いの立てり  *灰汁=あく           岩﨑 雅子  P77

いまはもう触れていないけど、指に残る野菜の匂いは
なんだか奇妙な感じがしますね。
ここでは紫蘇の実の灰汁、
「匂いの立てり」がとてもいいなと思って選びました。
箸という細長いアイテムを持つたびに
匂いも一緒に立つ、という把握がいい。
「立てり」という動詞で、
いきいきした感じがあります。

画布の隅に黄色く塗られし一艘を夏の柩のように見ていつ   中田 明子     P81

水辺を描いた絵画の隅にある
「黄色く塗られし一艘」を見ているときの歌です。
黄色は青色とは対比の鮮やかな色だから
目についたのか、しずかなボートに
去りゆく夏のイメージを重ねています。
「夏の柩」という表現が切ない感じです。
そういえば、中田さんの歌は
一首ごとに静謐な雰囲気を持っているので
美術館で小さな作品を順に見ているような感覚を覚えるな、と
今になって気づきました。

恵まれていたのでしょうね銀色のピアスくわえて湖面に落とす     藤原 明美   P82

とても不思議な一首です。
「恵まれていたのでしょうね」と他人事みたいに言っているけど
自分のことかもしれない。
過去形なので、今では状況が違うのでしょう。
「くわえて」という動詞も奇妙で、
犬の動作のようですが、本人かもしれない。
惜別なんだけど、夢の中のような雰囲気をもっています。

かろやかな列車のリズムと隣席の貧乏ゆすりがときにずれおり    田村 龍平   P97

ちょっと面白いテイストを持っている短歌が得意な方のようですね。
「隣席の貧乏ゆすり」いますね、こういう人。
列車の揺れるリズムと貧乏ゆすりのリズムのズレを
把握していて、面白い歌です。
「ときに」がいいな、と思っています。
けっこう長い間、隣でリズムを聴いていた感じがします。