はかなごと繰り返しつつ来し生のリンスインシャンプーのごはごは 山下 好美 P191
上の句で今までの人生の様子、
下の句で日常生活の中で使うアイテムの話につなげています。
「ごはごは」はリンスインシャンプーで洗った後の
髪の質感だと思うのですが、
今までの人生のあり様を思わせます。
ごわついた髪の質感のような人生であるのかもしれないけど
軽めに詠んでいて、おもしろい雰囲気があります。
いつも食べ残すパセリが今日はないことをかなしむごとき純真 神山 倶生 P192
全てが結句の「純真」にかかっていく比喩になっていて
私はこういう長めの比喩もあってもいいと思っています。
(私が同じような方法を使って「長すぎる」って批判されたことがあるんだよ)
サンドイッチ等のかたすみに添えられることがあるパセリ、
いつもはあるのに、今日はないんだ、とちょっと寂しい。
小さな欠落に気づく感覚、それを気にする感覚。
日常の一コマを比喩にして内面の繊細さを詠んでいるので、
ちょっとした可笑しさも含んでいます。
心臓と小指は遠く繋がってぎゅっとされたらぎゅっとなります 中森 舞 P195
下の句の表現が面白いな、と思います。
小指をふくめ、手をぎゅっと握られたのだろう。
そのときの緊張を
「ぎゅっとされたらぎゅっとなります」としている点が面白い。
下の句に省略がありながら、シーンやそのときの気持ちが
しっかりつたわる歌になっています。
雨の日に猫の後頭部を嗅げば湿り気を帯びた我が家の匂ひす 三好 くに子 P198
一緒に暮らしてきた飼い猫、
猫の後頭部の匂いをかいだはずなんだけど、
それは同時に「湿り気を帯びた我が家の匂ひ」でもある。
飼っているペットがもうすっかり我が家になじんでいることや
それまでの時間の経過を思わせます。