巻末の作品批評、今年の後半の担当者の方に変わりましたね。
7月号では、加茂さんの評がよかったな、と思います。
「世界遺産」という貴重で荘厳なイメージと、街中の「市役所の車」の組み合わせが奇妙な面白さ。
まるで世界遺産が決まった時間をきっちり走り続けて、仕事をしている律儀さを持っているかのようなユーモアが感じられます。街なかでちょっと見かけただけの光景でしょうけど、切りとり方で面白さが出ています。
車体に「貼られた」ということは、ステッカーかな、と思ったのですが・・・この点はすこし、迷います。
たこ焼きの花かつをにも風は来てマヨネーズともお別れの春
森尾 みづな P213
屋外でたこ焼きを食べているのでしょう。アツアツのたこ焼きの上にかかった花かつをが風でふわふわ、揺れている。
で、面白いのは下の句。「マヨネーズともお別れの春」という部分をどう読めばいいのか、ちょっと迷います。
春は別れの多い季節でもあるので、なにかとの別れを、マヨネーズという調味料に託してみたのか。「たこ焼き」そのものではなくて、「マヨネーズ」という選択が面白い。
言葉の運びがばちっと決まっていて、風格を感じさせるような詠いぶりも、題材と相まってユーモラスです。
耳元で鰻を食うかと尋ねれば父は微笑み呼吸止めたり 鈴木 健示 P214
父親の死の瞬間の1首です。
鰻はお父さんの好物だったらしく、この歌のあとに、鰻の蒲焼きを柩に入れた、という歌があります。
死の瞬間なので、もちろん、実際に食べるのは無理としても、最後に食べさせてあげたいと思ったのでしょう。
生きている間に、食べ物を噛んだり、呼吸したり、会話したり、口もよく動きます。
最後に微笑み、そして呼吸を止める。出来事を淡々と詠んでいながら、情感があります。