波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「ミルク」 

いまふかく疲るるわれにフェルメールの女ミルクを注ぎてくれぬ

 小島ゆかり「点火して」『雪麻呂』P93

 

フェルメールの絵画の中でも、とくに有名な作品のひとつ『牛乳を注ぐ女』。台所で女中が牛乳を器に注いでいるシーンを描いた作品です。

 

「いまふかく疲るるわれ」のために、絵画のなかの人物がミルクを注いでくれている。

 

現実の「われ」と、絵画の中の女中の間に、急に接点ができたような面白い発想です。現実と創作物のあいだにつながりを作って、ちょっとした発想から癒しを得ている感じ。

 

ユーモアのある捉え方だと思いつつ、そんな発想が出てくるほど、疲れてしまっている主体がいるのだろう、とも思います。

 

ミルクの優しげなイメージもあって、なんとなく冬のイメージで受け取ったのです。

 

今年は私自身、精神的にだいぶイライラすることが多かったので、ちょっと身に染みて読んでしまいました。