手をふれず眼ざしあはせず男雛女雛それぞれの痛みそれぞれに守る *守る=もる
「雛とふるさと」『歓待』川野里子 P115
最近、読んでいた歌集から。ひな祭りの歌ではあるのですが、ちょっと苦々しい一連でした。
そういえば雛人形はとなり合ってはいるけど、確かに互いに手を触れることもなく、まなざしを合わせることもなく、そのまま前を向いています。
その様子を「それぞれの痛みそれぞれに守る」と描写したところに、そもそも個であることの本来の姿が見えてくるようで、印象に残りました。
描写の対象は人形ですが、結局は人の姿の反映でもあるので、それぞれが抱える痛みはそれぞれが保つしかない。
「守る(ルビは「もる」)」という動詞が興味深く、耐える、とかではないんだな。
痛みの入れ物みたいな雛人形。小さな人形に託された痛みに哀しみがありつつ、「守る」という動詞による強さも感じるのです。