知っていて知らないふりをすることの、豆腐の春は白くて甘い
松村 正直 「塔 2016年6月号」
塔6月号の中から目に留まった歌をいくつか取り上げていきます。
松村さんの歌集を読んでいると
3句目に「の、」という区切りを入れる方法をたまに見かけます。
面白い構造の歌だなあと思います。
一度流れが切られた後に、強引に続けられる内容があることで
より上の句と下の句の繋がりや関連性を考えざるを得ない歌になるようです。
蛇口より時おり落ちる水音の、立場が人をむずかしくする
竹藪の奥へ続いていく道の、言わないでその先の言葉は
松村 正直『午前3時を過ぎて』
冒頭の歌は「春の豆腐は」ではなく
「豆腐の春は」というところがさりげないけど、面白いポイントです。
形はあるけどもろくて、白い、甘い豆腐。
あえて知らないふりをしていることの愉悦とかふわふわした感覚と、
豆腐の視覚や味わいなどのいろんなイメージを結び付けた
面白い一首です。