波と手紙

小田桐 夕のブログ。塔短歌会に所属。  ゆふぐれはあなたのなかに沈みゆくとほき国だと気づいてしまふ

塔2017年12月号 1

今年も最後の12月号が届きました。

1年、きちんと詠草出せてよかった。

塔12月号には松村正直さんの『風のおとうと』の

書評を掲載していただきました。

できる限りの力で書いたので、読んでほしいです。

溜飲を下ぐるがごときもの言ひのこのひとも信を置くにあたはず    真中 朋久 P3

物言いから見えてくる相手の本性。

「このひとも信を置くにあたはず」と割り切った認識から思うのは

もう何度も「このひと」のような人を見てきた、という現実。

相手を見限っていくときの冷静さや

ひりっとした痛みがあります。

箪笥からあじさい色がはみ出して君のネクタイ旅に出たがる  前田 康子  P3

まるで旅行に行きたがるように

箪笥からちょっとはみ出したネクタイ。

「あじさい色」という微妙な色合いがよくて

私は淡いブルーから紫を思い浮かべました。

ネクタイというアイテムが身に着ける人の分身のように描かれていて

面白さがあります。

夏雲のひとつひとつの輪郭がきれいだ君が話を終えて   松村 正直    P4

どんな会話が交わされたのかはわからないけど、

聞き終わったあとの心情を雲に託している歌だと思います。

読者に想像させる余地が大きくて、

人によって受け止め方がかなり変わるかもしれません。

夏の雲の輪郭のひとつひとつがきれいに見える、

話をきいたことでよりクリアになってしまう世界。

私はとても大事なんだけど、なにか言いづらいことを

打ち明けられたのかな、と思いました。

言葉のつらなりがとてもなめらかななかで

「きれいだ/君が」という句割れがアクセントになっています。

「文具店うすいゝ」の「ゝ」は身震ひて看板に泣く蝉となりたり    岡部 史  P6

「ゝ」から蝉への発想の飛躍が面白い歌です。

本来は店名の文字のひとつであった「ゝ」から夏の印象的な生き物である蝉へ、

メタモルフォーゼともいえるし、

夏に見た光景が混ざってできている、とも取れます。

似合わなくなってくるのは膝丈か中途半端がすなわち中年    永田 紅  P11

年齢によって似合わなくなる服ってありますよね。

たしかにスカートの丈は女性が悩むポイントかも。

自分自身の年齢や変化を受け入れて

「中途半端がすなわち中年」とさらっと言っているあたり

開きなおった感があります。

いつのどの明かりの下で繰りていし植物図鑑の蚊帳吊草は     山下 泉  P13

かつて手にして頁をめくっていた植物図鑑。

その中に見た蚊帳吊草は、確かにあった少女時代を回想する

きっかけなのでしょう。

蚊帳吊草は田畑などに生えている雑草の一種。

蚊帳はいまではなかなか見ないけど

蚊帳吊草の茎を裂いていくと、蚊帳みたいな形になるらしく

昔の暮らしに根付いた名前です。

大きな植物図鑑も蚊帳もすでに遠くなってしまった現代から

ほのかな思い出を引き寄せるノスタルジックな一首です。