波と手紙

小田桐 夕のブログ。塔短歌会に所属しています。         ゆふぐれはあなたのなかに沈みゆくとほき国だと気づいてしまふ

塔2017年7月号 3

蟻一匹見つめつづけて愛せるか 隣には君がゐて春嵐   福田 恭子 P115 

 妙に気になるのだけど、うまく良さがわからないときってよくあります。

「蟻一匹」とはとても小さな命、

「見つめつづけて愛せるか」はだれに言っているのか、

主体が自分に向かって言っているのかもしれない。

隣にいる「君」との関係のことを言っているのかもしれない、

と思い至り、すこし不穏な感じがします。

「蟻」という小さなものと、

「春嵐」という大きなものを対比している構図も

興味深いつくりです。

電線を延べて作りしスプーンの柄にはかすかに模様の彫らる   岡村 圭子 P129 

 どうも舞鶴で戦後の引揚の展示を見た一連のようです。

舞鶴市には引揚記念館があるらしいし、そちらかもしれません。

説明的、レポート風にならずに描けるかどうか、力量が出る一連です。

食事につかうスプーンを「電線を延べて」作るということは

まさに非常時のありさまの一つでしょう。

そしてそのスプーンの「柄」に

ちょっとした「模様」があることに注目していることで、

当時の人の生活へのまなざしがいきた歌になっています。

音楽を満たして仄かに発光すライブハウスは夜の水槽   杉原 諒美  P129

ライブハウスはあんまり広くないことが多いような気がします。

ミュージシャンと聴衆、楽器の音と熱量がすごくて

ライブハウスのなかってたしかに発光しているみたい。

ただ「仄かに」とした点が、いまひとつ合っていない気もします。

結句で「夜の水槽」としたところが美しくて

暗闇のなかで光っている鮮やかさがすぐに浮かびます。

園児らは手を上げ道を横断中くの字くの字の連なりゆけり   水越 和恵  P145

とてもかわいい一首です。

園児たちは教わった通りにきっちり手をあげて渡っていくので

ちょっと離れた位置から見ていると

「くの字くの字」の連続に見えるのでしょう。

ちょこちょこ、みんなで渡っていく様子が浮かんで

映像が浮かぶ一首です。

この島ですることをして出て行くよ。かばんをよろしく日の出が近い  吉田 恭大 P154       *「吉田」の「吉」は上が土です。

そろそろ別れの時期だとわかっている心情なのだけど

湿っぽい感じがなくて、さらっと言っている感じが印象的。

出て行くよ。(意志)+かばんをよろしく(依頼)+日の出が近い(事実)の

3つをぽんぽんぽん、と並べていて

2番目の依頼の部分に相手への感情がみてとれるし

なんとなく主体の体温を感じる気がします。