波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「鏡」

三面に淡い雨降る三面鏡傘さすひとを映すことなし

    小島なお「雨脚」『展開図』P57

三面鏡はたしか、実家のドレッサーで見たことがあったな・・・・。お化粧をする際に、三方向から確認できるので、色ムラがないか、仕上がりがきれいか、しっかり確認できます。

 

三面の鏡なので、当然ながら、それぞれの面に雨が映って見えます。しかも「淡い雨」なので、繊細な線のちらちら降るさまが映って、すこし幻想的かもしれません。

 

しかし、そのどの面にも、「傘さすひと」を映すことはなく、ただ雨が降るようすばかり。

 

室内で卓上またはドレッサーなどの上にあって、角度として外にいるひとが映るような角度にはないのかもしれません。

 

ただわざわざ「傘さすひと」と言っているので、室内から見ている、という点がより強調されて感じられます。

 

作中主体は室内にいて、鏡に外の雨が映っても、ひとを映すことがないので、隔絶されたひとりでいる状態を間接的に描写しているのではないか、と思いいたりました。

 

鏡に映る景色やものは、直接自分で見ている場合とはまたちがった趣きがあります。三面に映る外部の様子で、より強く外と、内側にいる自己の姿を認識するのです。