波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「線路」

雨の日に長く線路を見つめてはいけない 死後も濡れているから

松村正直「舟のゆくえ」『について』P36

 

久しぶりの松村正直さんの歌集。タイトルもちょっとクセがある。今回取り上げるのは、ちょっと怖い、忠告のような一首。

 

雨の日に長く線路を見つめていると、死後にまでその線路が濡れていることになる。雨日に見た線路に、その後もずっと付きまとわれる感じ。だから、見つめてはいけない。

 

四句目が「いけない 死後も」と一字空けと句割れになっていて、一字空けによってそのあとにつづく言葉までちょっと間を空ける。間を空けることで、明かされる理由まで関心を引っ張り、怖さを膨らませる。

 

本人は既に死んでいるのだから、線路が濡れていてもどうということもないか、というとそうでもない怖さがある。亡くなった後にまで安楽がないようなイメージがあって、そこが怖いのです。

 

同じ一連の中には以下のような歌もあります。

「タナカ・アヤ」「アウヤマ・サンジロ」「キト・マサル」抑留死者のカタカナあわれ

松村正直「舟のゆくえ」『について』P35

 

抑留死者はたぶん、シベリア抑留での死者のことだと思います。バム鉄道の建設など重労働の末に亡くなった方の名前は、カタカナで、しかもところどころ不自然な音で記載されている。

 

掲出歌の「線路」は、もしかしたら抑留者たちが敷設に関わった鉄道の線路かもしれなくて。もしそうなら「死後」の語がより重く感じられます。