波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「街」

だらしなく降る雪たちにマフラーを犯されながら街が好きです

阿波野巧也「ワールドイズファイン」『ビギナーズラック』P9 

 

街に関する歌が多い歌集でした。

 

全体的な語り口はとてもライトですが、ときどき、いい意味で引っかかる表現が入っています。

 

取り上げた歌なら、「犯されながら」。ちょっとびっくりする語ですが、雪がマフラーに落ち、さらに湿り気を与えるさまを暴力的な語を用いることで、日常生活の中の奇妙な部分が浮かんでくるのではないかな、と思いました。

 

この歌集の中の街は、直接は、作者が大学時代を過ごした京都なのですが、読者の中にある、いつも過ごしてきた街並みを思い出させてくれるのです。

 

街が好き、という素直な肯定はいびつな部分も含めつつ、の肯定だと思います。