やっと塔1月号の評が終わりますー。
長かったよー。
雲がふわ、ならば眠りはすやと呼ぶここは平均株価の谷間 拝田 啓佑 P182
この歌はもとにふまえている歌があります。
すでにある歌から連想して、今度は眠りに「すや」という呼称を与えて、その後にでてくるのが「平均株価の谷間」。かわった着地だな、と思いつつ発想の面白さには惹かれます。
ただ、あんまりうまく読めない部分はあります。眠りが出てくるのは、夜だからなのか、寝不足なのか。
「谷間」という落ち込んだイメージのある語を置くことで、なんとなく、その眠りはただの一時的なものかも、と思います。本当は「すや」というほど安らかなものでもないのかもしれません。
海岸に張ったテントで僕たちはかすかにともるランプになった 近江 瞬 P182
海岸に張ったテント、それだけでも非日常的な空間になります。ランプを灯すのではなく、自分たちがランプになるという発想。
そのなかに入って過ごしている作中主体とその相手が「ランプになった」という飛躍に、日常とは違う空間のなかにいる雰囲気を感じます。
「かすかにともる」という点が儚さも感じさせて、いっときの幻想的な時間に思いを馳せることができます。
停車時もタイヤは車の重たさを ほんとの逃げ場なんてあるのか 笹嶋 侑斗 P186
車は停車しているけど、タイヤは変わらず車体の重さを受け止めている。そのシーンから「ほんとの逃げ場なんてあるのか」という問いかけにつなげています。
「重たさを」と中途半端な状態で三句目を終えている点が面白いところです。「・・・」みたいな余韻があって、一字あけて疑問につなげている。
日常で見かけた光景から、内心で思っている疑問へ。「ほんとの逃げ場」というものが欲したところでおそらくないのかも・・・と気づいているけど認めたくない、といった感情の提示です。
主語という起点が世界に干渉しイット起点のイットレインズ 仲町 六絵 P190
ちょっとごちゃごちゃした印象があるんですが、発想が面白い歌です。
「世界に干渉」がちょっとイメージつかみにくいんですが、主語を起点にして、なにかが始まる世界。たとえば英語の例文で見たことがあるだろう「イットレインズ」。
日本語では主語を確定できない文を使うことも多いですが、英語は主語が強く意識されます。
雨が降る、という自然の現象に「イット」ではじまる一つの短文。「イットレインズ」の「イット」に、日本語話者である作者は、何かとらえがたい世界観を感じたのでしょう。