波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

塔2019年1月号 2

忙しくてなかなか更新できず・・・。

手元にはすでに塔2月号が届いています。

ま、1月号の感想をそろそろ終わらせないとなー。

 

卓の上の本やノートやプリントを退けてたちまち湖が生まれる      澤端 節子     P40

 

けっこう雑然と本やノートを置いていたテーブルかもしれない。卓上にあったものをどけることで、空間が生まれます。

「湖が生まれる」という結句で日常から空想の世界にさっと発想が飛んでいきます。

実際にはスペースが広くなっただけの卓上のことなのでしょうけど、その広がりから空想の湖へ及ぶ想像の力が、やはり日常には必要だと思うのです。

結句で一気に景色が広がり、爽快感のある美しさがあります。

 

傷つけられてゐると思ふ方が楽 突きさしてをり梨の深みを      澄田 広枝    P58

 

ナイフで梨の皮をむいて、カットしていくシーンだと思います。

ナイフの長さを突きさして梨を切り分けていくときに、作中主体は梨という物体を傷つける側にいます。

その一方で、「傷つけられてゐると思ふ方が楽」と内面では思っている。

人間は誰でも自分が傷つけられたことは覚えているし、受身の姿勢でいるほうがある意味では楽、ということかなと思います。

そうはいっても、自分が他者を傷つける側に回ることもよくあることで、そのうえそこは直視したくない、という面も持っています。

いままさに傷つける側にいながら、しかし「傷つけられてゐると思ふ方が楽」。

どこか利己的で、だれのなかにもある感覚ですが、言葉として取りだすことで見ざるを得ないような存在感が出てきます。

 

疲れれば目を合はせなくなる人とねぢれた位置で海を見てゐる     小林 真代     P63


すっかり疲れてしまったときの特徴が、「目を合はせなくなる」ことなんていうところに、妙にリアリティを感じます。

この相手と作中主体との関係ははっきりわからないのですが、ふだんは会話もするし、目も合わせるし、ある程度距離の近い方ではないかな、と思います。

「ねぢれた位置で」という点が面白く、なんだかなにをいっても通じない、うまくいかないような立ち位置になっているのを感じます。

眼前には広い海が広がっているのに、海を見ている側はなんだか身動きとりにくそうな心境。相手の特徴とか、お互いの位置のとらえ方が興味深い一首です。