波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

塔2018年7月号 4

塔8月号が10日ごろには届きました。早い。ありがとうございます。

見舞うひと皆携えてくるせいでペットボトルのお茶ばかりある     小松 岬  P160

どうもお祖母さんのお見舞いに行ったときの一連みたいです。

お見舞いに来る人たちがみんなペットボトルのお茶を持ってくるから、ベッドサイドにはお茶が並んでいる光景。

まあ、あるよなぁと思いつつずらりとならんだペットボトルの数だけ、だれかが訪れた、ということ。ちょっとずつ形の違うペットボトルが並んでいて、奇妙なオブジェみたいになっているのでしょう。

だれかの手を介在してもたらされたお茶の本数、祖母をとりまく人々の形のようです。

みどりいろの固き契りを裂くように二つに分ける蚊取り線香      和田 かな子   P161

これは面白い歌です。蚊取り線香はたしかに、きゅっと二つセットになった状態で缶に入っていたはず。

二重の渦巻や螺旋文様って、どこか呪術的でもあり、また遺伝子の構造にも通じます。

壊さないように、手でそっと取るときに、「みどりいろの固き契りを裂くように」とは言い得て妙だと思います。

くるくると渦巻状になった蚊取り線香をわけてみると、空いたすきまが妙に心細い感じに細くて、なにか肝心なものが欠けたような気もします。

「労働は正義」みたいな価値観のひとがわたしをぶったたく 痛い    太代 祐一    P166

「労働は正義」みたいな価値観のひと、こんなのが近くにいたら疲れそう・・・。でも、たまにいますね。

「ぶったたく」といっても、本当に暴力を振るわれたのではなくて、圧倒的な正しさみたいなものをまとっている人の考えを、ぐいっと押し付けてこられたのではないかな。反論してもややこしそうだし、逆らう間もなく叩かれたのでしょう。

結句の最後に「痛い」と置かれた正直な一言で、そこまで正しさにのれるわけでもない、平凡な「わたし」のホンネが提示されています。

玉葱や蕪のかたちの花挿しをあつめて暮らす未来もいいね       紫野 春   P205

玉葱や蕪といった野菜から想像するのは、丸っこくてちょっといびつなフォルムです。でもちょっといびつなくらいが、またかわいい。

「花挿し」は本当に丸っこいフォルムの小さな花挿しのことなのだろうけど、それと同時に、なんとなく心理的なイメージを感じさせます。

丸くて小さくて、ちょっと気持ちが和むようなアイテム、そんなささやかさを集める暮らしがいい、と思っているのかもしれません。

けっして贅沢とか豪華とかいうわけではなくて、もっと身近なものから感じるイメージに、未来という漠然とした時間の長さを託しています。