桜の散るのが早すぎる・・・。
もうすこし見ていたかったなぁ。
ペチカとふ商品名のストーブが灯油をこくと飲む雪もよひ 森尾 みづな P160
「ペチカ」はもともとはロシア語で暖炉を意味する語。
音の響きがなんだかかわいい感じ。
灯油ストーブとペチカを使ってレンガに熱を蓄えることで、
長時間にわたって暖かい室内になっているんだと思います。
私は使ったことがないけど、写真で見ると、とてもいいデザイン。
「灯油をこくと飲む」は擬人法ですが
作中主体がストーブを愛用している感じは伝わります。
厳しい冬ながら、「雪もよひ」という柔らかい語によって
ふんわり温かい部屋の空気が思われます。
たぶんすぐあなたは誰かと手を繋ぎその手を誰とも比べないひと 中森 舞 P165
「あなた」という人物がどんな人なのか、
手をつなぐという行為で表しています。
わりと簡単に手を取って繋ぐ人なのかな、とか
作中主体はそんな態度にいらだっているんだろう、とか
あれこれ想像してしまいます。
この歌のなかでのポイントは
「その手を誰とも比べない」にあると思います。
もちろん作中主体とも比べることはない、と分かっているのでしょう。
手をつなぐ、という行為のもつ意味が
「あなた」と作中主体とでは違っていて
その差が興味深い陰影を作っています。
黒板に赤く書かれて色弱のぼくにはザネリの孤独が見えない 宮本 背水 P165
「銀河鉄道の夜」のなかに出てきたザネリは川に落ちたものの、
カムパネルラによって命を救われた人物。
他者の命を犠牲にして助かった、というその重さをお話の後、
どう背負っていったのだろう・・・。
主人公ではなく、「ザネリ」という人物を持ってきた点が
この歌の面白い点です。
黒板に赤いチョークで書かれると、
色弱の方にとっては非常に見づらい、と聞いたことがあります。
色弱によって色の区別がしづらいことと
他者の孤独を理解できないことを結び付けていて、
「たしかにあるはずなんだけど、いまひとつはっきり見えない」
という感覚に実感をもたらしています。