波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

塔2018年3月号 5

桜の散るのが早すぎる・・・。

もうすこし見ていたかったなぁ。

ペチカとふ商品名のストーブが灯油をこくと飲む雪もよひ   森尾 みづな    P160

「ペチカ」はもともとはロシア語で暖炉を意味する語。

音の響きがなんだかかわいい感じ。

灯油ストーブとペチカを使ってレンガに熱を蓄えることで、

長時間にわたって暖かい室内になっているんだと思います。

私は使ったことがないけど、写真で見ると、とてもいいデザイン。

「灯油をこくと飲む」は擬人法ですが

作中主体がストーブを愛用している感じは伝わります。

厳しい冬ながら、「雪もよひ」という柔らかい語によって

ふんわり温かい部屋の空気が思われます。

たぶんすぐあなたは誰かと手を繋ぎその手を誰とも比べないひと    中森 舞    P165

「あなた」という人物がどんな人なのか、

手をつなぐという行為で表しています。

わりと簡単に手を取って繋ぐ人なのかな、とか

作中主体はそんな態度にいらだっているんだろう、とか

あれこれ想像してしまいます。

この歌のなかでのポイントは

「その手を誰とも比べない」にあると思います。

もちろん作中主体とも比べることはない、と分かっているのでしょう。

手をつなぐ、という行為のもつ意味が

「あなた」と作中主体とでは違っていて

その差が興味深い陰影を作っています。

黒板に赤く書かれて色弱のぼくにはザネリの孤独が見えない     宮本 背水    P165

銀河鉄道の夜」のなかに出てきたザネリは川に落ちたものの、

カムパネルラによって命を救われた人物。

他者の命を犠牲にして助かった、というその重さをお話の後、

どう背負っていったのだろう・・・。

主人公ではなく、「ザネリ」という人物を持ってきた点が

この歌の面白い点です。

黒板に赤いチョークで書かれると、

色弱の方にとっては非常に見づらい、と聞いたことがあります。

色弱によって色の区別がしづらいことと

他者の孤独を理解できないことを結び付けていて、

「たしかにあるはずなんだけど、いまひとつはっきり見えない」

という感覚に実感をもたらしています。