その先に海はあるはず右へゆく道のかなたを一瞬思う 吉原 真 P159
今回の若葉集のトップにおかれていたのが吉原さんの歌でした。
どの歌も魅力的と思いつつ、どれか一首引こうと思っても
はっきり決まらなかった。どうしてだろう。
「右へゆく道」の先に思いをはせながらも、
実際には進まない主体。
直接は見ることのない海なので
かえって想像のなかで膨らみそう。
現実には行くことがなくても、ある場所に
心惹かれる瞬間というのはあるものです。
やわらかい言葉を使いながら、
今後どんな作品を詠んでくれるのか楽しみです。
吹き出しに名前をつける これはふわ、これはギザ、なら、これは真実
とわさき芽ぐみ P166
漫画の表現で欠かせないのが、吹き出し。
いろんな形があり、キャラの心理や状態を示すようになっています。
この歌では「吹き出し」と言ってはいるけど、
漫画を読んでいるわけではなくて、
現実の自分たちがしゃべっている会話の内容を
分類しているのかもしれない。
柔らかいフォルムの「ふわ」、とんがったフォルムの「ギザ」ときて
「真実」というのは言わないほうがいいかもしれない本音なのでしょう。
言葉の選びや並べ方に面白さがあります。
ぐるりって〇・五ミリのペンで囲うまるではなくてぐるりで囲って 中森 舞 P166
細めのペンでなにかに印をつけている。
「ぐるりで囲って」というこだわりが
とても気になります。
具体的な理由や背景はわからないけど、
その動作に意志の強さとかこだわりとかが
見えてきます。
人物そのものはよくわからないのに
妙な存在感があります。
角取れた石組みぐんと反り上がり落伍者がゆく眼鏡橋かな *角=かど
石川 泊子 P167
アーチ型のフォルムが特徴的な眼鏡橋。
「角取れた石組みぐんと反り上がり」に勢いがあって
橋のフォルムが立ちあがってきます。
「落伍者」という単語がやけに目立ちます。
いったい、誰のことを指しているのか。
ある場所から外れてしまった者が歩いていく光景を
なぜ詠んでいるのか。
場所と人の組み合わせがとても気になった一首です。