全国大会の特集なので分厚いよー。では月集から。
ははそはの母型彫刻機はベントン式 パンタグラフの原理とぞいふ
真中 朋久 P3
たしか、ある歌会で題詠「母」として出された一首でした。
題をそのままのイメージで詠むのではなく、
ちがうイメージに結びつけていて、工夫の参考になる一首だと思います。
「母型彫刻機」は活字印刷に使われた機械です。
清書された原図の文字をなぞって、縮小された活字を生産した器具ですが
もともとはパンタグラフという製図具を応用したものだった、
という事実が詠まれています。
・・・知識のないひとにはついていきにくいなぁ。
でも読みごたえのある歌です。
強がりは断定的に言うべしと諭すがごとし馬鈴薯のはな
山下 洋 P3
馬鈴薯の花は白色や薄紫のかわいい花ですが
「強がりは断定的に言うべし」と教えてくれているようだ、と言います。
強がりなので、あくまで言い切ることが大切。
馬鈴薯の花は、星型の花のなかに黄色い芯があって、
意外とメリハリのある花だったと思います。
「べし」「ごとし」と文語の響きが続いてから
「馬鈴薯のはな」という結句を持ってくることで
ちょっとふんわりした色の花を思います。
炎昼のまぶたにひとり走らせる青い毛並みの馬はあなただ
江戸 雪 P4
陽射しの強い真昼、思いだす人がいるのでしょう。
相手のことを「青い毛並みの馬」としたことで
幻想的な広がりがあります。
くらっとするような暑さと
走り去っていく馬と、自分だけに広がる
イメージに形を与えている歌です。
みづうみをめくりつつゆく漕ぐたびに水のなかより水あらはれて
梶原 さい子 P7
前後の歌から、磐梯山の湖をボートで巡ったときの歌とわかります。
「めくりつつゆく」が面白くて、ボートが進むにつれて
ひろがる水の動きが目の前に浮かんでいきます。
オールで水をかくしぐさを、「水のなかより水あらはれて」という点も
観察が生きています。
樹のつくる三角形の影のなかわが夕暮れの指定席はあり
なみの 亜子 P11
夕暮れどきだから樹木の影が長く伸びて
「三角形の影」を作っているのでしょう。
疲れた時に座る自分だけのスペースを持っているのかもしれない。
鋭い三角形の形の中に入ることで
周りから隔たりが欲しい、ということかなと思います。
「指定席」という表現にけっこうこだわりを感じます。