波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

塔2017年11月号 1

全国大会の特集なので分厚いよー。では月集から。

ははそはの母型彫刻機はベントン式 パンタグラフの原理とぞいふ

               真中 朋久   P3

たしか、ある歌会で題詠「母」として出された一首でした。

題をそのままのイメージで詠むのではなく、

ちがうイメージに結びつけていて、工夫の参考になる一首だと思います。

「母型彫刻機」は活字印刷に使われた機械です。

清書された原図の文字をなぞって、縮小された活字を生産した器具ですが

もともとはパンタグラフという製図具を応用したものだった、

という事実が詠まれています。

・・・知識のないひとにはついていきにくいなぁ。

でも読みごたえのある歌です。

強がりは断定的に言うべしと諭すがごとし馬鈴薯のはな

                山下 洋   P3

馬鈴薯の花は白色や薄紫のかわいい花ですが

「強がりは断定的に言うべし」と教えてくれているようだ、と言います。

強がりなので、あくまで言い切ることが大切。

馬鈴薯の花は、星型の花のなかに黄色い芯があって、

意外とメリハリのある花だったと思います。

「べし」「ごとし」と文語の響きが続いてから

馬鈴薯のはな」という結句を持ってくることで

ちょっとふんわりした色の花を思います。

炎昼のまぶたにひとり走らせる青い毛並みの馬はあなただ

                江戸 雪  P4

陽射しの強い真昼、思いだす人がいるのでしょう。

相手のことを「青い毛並みの馬」としたことで

幻想的な広がりがあります。

くらっとするような暑さと

走り去っていく馬と、自分だけに広がる

イメージに形を与えている歌です。

みづうみをめくりつつゆく漕ぐたびに水のなかより水あらはれて

             梶原 さい子   P7

前後の歌から、磐梯山の湖をボートで巡ったときの歌とわかります。

「めくりつつゆく」が面白くて、ボートが進むにつれて

ひろがる水の動きが目の前に浮かんでいきます。

オールで水をかくしぐさを、「水のなかより水あらはれて」という点も

観察が生きています。

樹のつくる三角形の影のなかわが夕暮れの指定席はあり

             なみの 亜子  P11

夕暮れどきだから樹木の影が長く伸びて

「三角形の影」を作っているのでしょう。

疲れた時に座る自分だけのスペースを持っているのかもしれない。

鋭い三角形の形の中に入ることで

周りから隔たりが欲しい、ということかなと思います。

「指定席」という表現にけっこうこだわりを感じます。