波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

塔2017年2月号 5

若葉集から。

栞紐はさんでありしところより読み始めて馴染むまでのしばらく      高橋 ひろ子  P164

読書をはじめたときに、こんな感覚を覚えることはよくあります。
「馴染むまでのしばらく」のあいだに
前回までに読んでいた内容を思いだしていて
読むスピードが上がるのに少し時間がかかる。
読み始めのかるい記憶の混沌を詠んでいます。

左手に当てるシャワーの水が熱持つまでをためらわぬように恋     山口 蓮   P175

結句の「恋」にかかっていく長い比喩。
「熱持つまでを」になっていて
「熱を持つまでを」といったような
助詞がないので少し詰まる感じはします。
句切れ無しでずっと読ませるので
結句の「恋」に着地したときに
安堵みたいな感覚をもちます。

原色のランナー溢れる道は伸び 過ぎてゆくのみ、ひかりもあなたも    杉原 諒美  P176

ラソンを見ているのだろうと思います。
わっと走り出したときかな、
「原色のランナー溢れる」で雰囲気がよくわかります。
三句目のあとの一字空けで
すこしの時間の経過とか
心理的な距離を感じさせます。
みている側にすると、
「過ぎてゆくのみ」になるのだけど
過ぎ去っていくことを惜しんでいる感覚が出ていると思います。