波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

塔2017年1月号 2

ゴキブリの平たい家を組み立てる、足ふきマットを貼る位置がある    相原 かろ    P28

ゴキブリホイホイのことでしょうけど、
「平たい家」という表現がなんだかおかしい。
「足ふきマット」で足を拭いたが最後なんだけど
よく考えると面白い発想のアイテムですよね。
三句のあとに読点をうつことで
「足ふきマットを貼る位置」に
視点が集中する効果があるのかな、という気がします。

んだなあ、と相槌をうつおばあちゃん相槌以外は聞き取れないよ    山西 直子     P38

「んだなあ、と」という会話をそのまま使っている
初句の入り方がとても面白くて、リアリティがあります。
ご高齢のせいもあってか
相槌以外の台詞はわからないなか、
相槌という短い言葉で成り立つ
ささやかなやり取りに、重みや陰りが見て取れます。
結句の「聞き取れないよ」の「よ」があることで
とても柔らかい雰囲気になっています。

はしやげないわたしがぽつんとをりましてアクアリウムの底の砂つぶ    澄田 広枝    P39

どこかにぎやかな場所に行ってみたけど、
いまひとつはしゃいだ気持ちになれないのかもしれない。
「ぽつんとをりまして」は自分のことをすこし突き放した言い方であると
同時にちょっとしたおかしさがあります。
「底の砂つぶ」というほぼだれも注目しない部分に
自分の姿を託している発想に、落ち着いた観察があります。

鴨兎鹿鹿栗鼠猿六枚の切手貼られて封書届きぬ        濱﨑 藍子       P48

漢字の並びはなんだろう、と思って読んでいくと
それは封書に並んだ切手だった、という構図がいいですね。
6枚の切手を並べて貼ってある様子を
その切手の図柄で表現したところが
とても面白いです。

ただ、この切手全部でいくらだったのか
計算しようとしたのですが、うまくいかない・・・・
知っている方がいたら教えていただけると嬉しいです。