今回はコスモスの結社内同人誌である『COCOON』を取り上げます。
コスモスはかなりの人数を擁する大きな短歌結社です。歌歴の長い年配の方も多く、若年層がもっと自由に作品を発表、批評できる機会を作ろうということで創刊されたのが『COCOON』です。
ちなみに私、かつて短歌結社を探しているときにコスモスに入ろうかどうか、ぎりぎりまで迷っていました。やめた理由はいくつかあるんですが、最大の理由はその人数の多さです。
・・・なんかもうね、疲れそうなんですよ。その人間の数で。正直なところ、塔でも多いわ、って思っています。
まぁ、それはさておき『COCOON』には、コスモスの有望な若手の方が参加されています。
印象に残った内容や短歌をちょっと紹介しておきます。
『COCOON』では、メンバーの作品が連作という形で発表されているので、オリジナルで読むとまた面白いですよ。
ひかり降る窓の席にて電卓を打つ指さきはそよげる青葉
河合 育子 「青葉風吹く」
閉ぢたとき骨のたわみに気づきたり傘に描かれし猫の尾ほどの
山田 恵里 「ハルジョオン咲く」
祖母なくて正すひとなしかがみなす水屋の奥にかしぐおちやわん
有川 知津子 「ぬらりひよん」
ヒバのあと右向いてまた前向いてクシャと次ぎたりバラク・オバマは
大松 達知 「あ、来た」
はなびらはみな失せにけり長き実のながみひなげし線のみに立つ
月下 桜 「まひるのほし」
ほそきひかり冷蔵庫より漏れたればたまご十個の使徒ならびをり
岩崎 佑太 「上弦の月」
一首目の「電卓」というアイテムの選択がいいですね。電卓のうえで素早く動く指の動きを「そよげる青葉」としたことで、季節感や葉の細やかな動きが重なります。
二首目は傘の骨のたわみと、その傘に描かれている猫の尾の組み合わせがユーモラス。
三首目は「正す」という動詞がとてもいい。ひっそりとした水屋を見ていると、几帳面だったろう祖母の様子や仕草が浮かぶのでしょう。
オバマ大統領の広島訪問を詠んだ歌はいくつか見ましたが、さすがに大松氏になると、切りとり方がシャープです。「ヒバクシャ」という単語のいい方までクローズアップすることで、注目されたシーンを再現していきます。
五首目は「長き実のながみひなげし」という音の連なりがとても心地いいですね。「長き実の」がなんだか枕詞っぽい感じ。花びらが散った後の状態を「線のみに立つ」という描写も的確でいい。
「たまご十個」が並んだ状態を「使徒」という宗教的な語に結び付けたところが面白い。冷蔵庫から漏れる光という日常的なシーンが神々しく見えます。
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『COCOON』では評論なども充実しています。私が注目したのは、「今読み返す一冊」で取り上げられた小島なおさんによる、加藤克巳歌集『螺旋階段』についての評です。
かなり昔の歌集ですが、その特徴が丁寧に読み解かれています。第一歌集における加藤克巳の短歌の特徴を追っていて、歌風の変化が大きかった加藤の短歌の原点を解説してくれます。
ちなみに私は大松さんによる「創刊のことば」も好きですね。
コスモスという大結社のなかからどんな言葉の実験が出てくるのか、楽しみです。