波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評 「閃光」

視界内降水しづかに閃光は見ゆいくたびも国はほろびむ
     真中 朋久「落葉の匂ひ」 塔 2016年3月号

 

「視界内降水」は視界内で雨は降っているものの、
観測者がいる場所では雨が降っていない状態を
さす気象用語だそうです。
自分がいる場所では降っていない雨が
遠くで降っているのを眺めているという状態に
どこか自分からは突き放したような心理も感じます。

雨のつぶが光って閃光に見える様子は
きれいかもしれないと思って読んでいくと、
その光こそ「いくたびも国はほろびむ」という
いずれくる滅びの予感なのかもしれないと
思いいたり慄然とします。

小さな光のきらめきからはじまって
歴史上何度も繰り返される盛衰をも想像させて
怖いながらスケールの大きい歌です。