波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評 「金属」

真っ白な鼻でわたしの金属にふれてくる四月の深海魚
          笹井 宏之 「ひとさらい」 

 

久しぶりに笹井さんの歌集を読み直す機会がありました。
ページを開くと唯一無二の世界があります。

この歌のなかの「金属」という言葉に惹かれます。
いろんなとらえ方があると思いますが、
自分のなかの奥深くにしまっている
他人にあんまり触れてほしくない、見せないようにしている
硬質な気持ちや記憶のような気がしました。

「四月の深海魚」という生きものもとても不思議な感じ。
深くて暗い海の世界に棲む生きものは
なにかほかの生きものにはわからない部分に
反応して近寄ってきたように思うのです。