波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評 「酢」

計量スプーンに満たしゆく酢の波立ちのはろばろと風をはらむ帆船
       中津 昌子「むかれなかった林檎のために」 

 

初句の大きな字余りから下の句へ広がっていく世界の提示が鮮やかです。
下の句にかけて増えるa音の連なりもイメージの明るさに役立っています。

計量スプーンというとても小さなアイテムを満たしている酢、
その小さな表面の揺れから波立ち、さらには海上の帆船にまで
飛躍する想像力の雄大さにすごく惹かれた一首です。

短歌はたった31音の文字から成る世界ですが
その短さのなかにダイナミックな想像が見えるとき
快感を感じるのです。