波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「銀貨」

ポケットに銀貨があれば海を買ふつもりで歩く祭りのゆふべ
         光森 裕樹 「鈴を産むひばり」 

 

とても美しい歌が並ぶ一連「鈴を産むひばり」のなかに置かれている一首です。

にぎやかなお祭りの夕暮れに、そわそわした気持ちで歩いているのでしょう。
「銀貨」という硬質な語がすこし異質な存在です。
実際には不可能だけれど、「海を買ふつもり」で
ふくらんだ気持ちのイメージがわきます。

いつもの日常とはちょっと違う空気のなかを
ふわふわ歩いている感覚がとても印象的です。