失はれし瓶の片耳を恋ふやうな愛が身内の奥に残れり *身内=みぬち
楠 誓英 「青昏抄」
先日、葉ね文庫さんで買った一冊のなかから。
美術館で陶磁器を見ている一連のなかにおかれている歌です。
しずかな美術館のなかでひっそりと置かれた、片耳が欠けた状態の美しい陶磁器。
つややかな質感や美しい模様をもちながらも、欠けてしまった部分はずっとそのまま。
瓶の持ち手の部分のことかなと思うのですが、
「片耳」という身体の一部と表したところがいいですね。
もう戻らないとわかっているのに、
だれかを欲する気持ちはひりひりした熱を帯びるようです。
陶磁器と主体の内面に残り続ける恋心の重なるようすが伝わります。