波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「たまご」

つぎつぎに光るたまごを産みながら春の真中の炭酸水は 梶原さい子「尾鰭」『ナラティブ』P98 春の穏やかな日に、炭酸水のボトルを眺めてみる。 (中味が見えているので、ボトルでしょう) 春なので、そこまで暑さが激しいイメージは無く、あくまで優しい雰囲…

一首評「鳩」

手のなかに鳩をつつみてはなちやるたのしさ春夜投函にゆく *春夜=しゆんや 小池純代「青煙抄」『雅族』P12 春の夜に近くのポストまで行って、手紙かハガキを投函するつもりらしい。 「手のなかに鳩をつつみてはなちやる」がやはり楽しい表現です。 投函する…

一首評「釦」

くるみ釦のいとこのやうなこでまりの釦ひとつに百のはなびら 有川知津子「しゆわつ、ぼつ」『ボトルシップ』P59 春の花が美しい季節です。最近、散歩で花を見るのが楽しい。白い毬が連なったようなこでまりの花も、とても愛らしい花です。 くるみ釦は、芯を…

一首評「それから」

サクラモチを秀衝塗の皿におくそれから遠い日のやうに食む 佐藤通雅 「あふむけ」『昔話』P134 片仮名で表されたサクラモチ。 いつもなら春の訪れを感じる楽しいお菓子ですが、この歌が収録されている『昔話』は、東日本大震災後の作品で構成されています。 …

「みかづきもノートvol.3」完成!

私がゆっくりペースで続けているオンライン読書会の内容を、小さな冊子にしております。 「みかづきもノートvol.3」が完成しました。

一首評「鉋」

早春の棟に大工が一人いてしきりに光に鉋かけいる 三井修「白犀」『海図』P70 早春の頃なので、ちょうど今頃かな。急に暖かくなったり、また寒くなったりして、なかなか厄介な気候です。 冬から春へ、季節の変化が感じられる時期の屋外に、大工が一人だけで…

一首評「山茶花」

息とめる遊びもいつか遠くなり山茶花はあかい落下の途中 小島なお 『展開図』「公式」P104 山茶花もそろそろ、おわり。じきに春ですね。 それにしても、山茶花の赤い花びらは道でよく目立ちます。 「息とめる遊び」は私はやった覚えが無いんですが、呼吸とい…

一首評「鍵」

鍵穴にふかく挿すときしあはせと思ふだらうかすべての鍵は 千葉優作「Phantom Love」『あるはなく』P87 鍵は鍵穴に挿して使わないと、意味がないアイテム。ドアを開けるときに行う日常の行為の中に幸福感があるのかどうか。 ある鍵穴には、当然、それと合う…

2022年をふりかえる

さて、いよいよ2022年も終わりです。この一年を振り返る記事をアップしておきましょう。こういうのは、自分のための記事ですね。 この1年で結社や短歌にからんで印象深かったことというと・・・。 数か月に一回の割合でオンライン読書会を開催した その内容…

一首評「ミルク」 

いまふかく疲るるわれにフェルメールの女ミルクを注ぎてくれぬ 小島ゆかり「点火して」『雪麻呂』P93 フェルメールの絵画の中でも、とくに有名な作品のひとつ『牛乳を注ぐ女』。台所で女中が牛乳を器に注いでいるシーンを描いた作品です。 「いまふかく疲る…

細川光洋『吉井勇の旅鞄』 【歌集・歌書探訪】

塔2022年11月号に掲載された「歌集・歌書探訪」の記事を以下にアップしておきます。今回取り上げたのは、細川光洋さんの『吉井勇の旅鞄』。 400頁に及ぶ本書を繰り返し読み、吉井勇の歌集のうち数冊を読み、自分の考えを書き出してまとめていく作業は、時間…

一首評「火」

虚実皮膜の皮のうちなるあぶらみをしたたらせつつ火を渡りゆく *皮膜=ひにく 真中朋久「火を渡る」 塔2022年10月号 P5 先月中にアップしたかったのですが…。遅くなりました。とても面白い歌だと思ったので、ちょっと書いておきます。 「虚実皮膜」は、事実…

一首評「泡」

死ぬほどというその死までそばにいて泡立草の泡のなかなる 小島なお「両手をあげて、夏へ」短歌研究2021年8月号 P32 先月、みかづきも読書会で取り上げた連作の中から。 泡立草、なかなか目立つ黄色で、路上で見ると強い色だな~と思います。泡立草は確かに…

一首評「観覧車」

少しずつ秋空削りて降りてくる巨大な観覧車のゴンドラは 三井修「地磁気」『海図』P40 たくさんのゴンドラを伴って観覧車が降りてくる様は、ダイナミック。 秋の空は透明感があって高く見えるし、その空中を回転しつつ観覧車が降りてくる様子を「秋空削りて…

『軍医の見た戦争 ― 歌人米川稔の生涯』を聞いて

8月12日に野兎舎主催のオンライン講座『軍医の見た戦争 ― 歌人米川稔の生涯』を拝聴しました。 今まで私は3年にわたって、松村正直氏の戦争を考える企画を聞いてきました。 一昨年、昨年は松村正直氏の『戦争の歌』(笠間書院/2018年)をテキストとして用い…

一首評「向日葵」

研究者になるまいなどと思ひゐしかのあつき日々黒き向日葵 真中朋久『雨裂』「丹波太郎」P15 (砂子屋書房 現代短歌文庫) 向日葵を詠んだ歌の中で、とても印象的な一首。既存のイメージを逆転させたような、画像の白黒を反転させたような強さがあるのです。…

一首評「影」

影のなかは影しか行けぬ 旧道のけやきに夏がめぐつてきたり 梶原さい子「白きシャツ」『ナラティブ』P129 暑い夏には、影もひときわ濃い。「旧道のけやき」という、おそらく馴染みのある風景の地面には、けやき並木の濃い影が連なっているのでしょう。 主体…

『COCOON』24号

『COCOON24号』の紹介をしておきましょう。

一首評「瓶」

その喉に青いビー玉ひと粒を隠して瓶はきっと少年 toron*「雨過天晴」『イマジナシオン』P47 夏っぽい歌を。ちょっと懐かしいラムネの瓶。ラムネは瓶の内側からビー玉で栓をしていることが特徴。 途中ですぼまったフォルムをしていて、コロンとビー玉が入っ…

第1回別邸歌会に参加してきました

久しぶりに歌会について。 今月26日に開催された第1回別邸歌会に参加してきました。 別邸歌会は、松村正直さんと川本千栄さんが主催する歌会で、各地のレトロな建物内で行うことが特徴です。 今回は松村さんが司会を担当されていました。(川本さんはお怪我…

川野里子歌集『天窓紀行』 【歌集・歌書探訪】

塔には「歌集・歌書探訪」という連載があり、歌集や評論集、アンソロジーなどを取り上げて書評を掲載する内容となっています。 2年間(24か月)の連載を、6人でリレー形式で回します。なので、一人あたり半年に1回、合計で4回の執筆の機会がやってきます。 …

『COCOON』23号

コスモスの結社内結社誌『コクーン23号』の評をアップしておきます。 新しいメンバーも加わったらしく、顔ぶれがちょっと新鮮です。

一首評「そらまめ」

そらまめに合唱のこゑ起こるべし塩ふればみな粒照り出でて 小島ゆかり『さくら』「春のポット」P37 そらまめは、春を感じさせてくれる食材。キッチンで茹でてから塩を振ってみたのでしょう。丸みがあるそらまめには、てらてらとツヤがあり、いかにも美味しそ…

一首評「守る」

手をふれず眼ざしあはせず男雛女雛それぞれの痛みそれぞれに守る *守る=もる 「雛とふるさと」『歓待』川野里子 P115 最近、読んでいた歌集から。ひな祭りの歌ではあるのですが、ちょっと苦々しい一連でした。 そういえば雛人形はとなり合ってはいるけど、…

『COCOON』22号

コスモス短歌会の『COCOON』22号について。簡単にアップしておきます。

塔2021年9月号アンケート結果について

今さらなのですが、塔2021年9月号は、800号記念号でした。 そして、先月末には、塔のオンライン新年会として、座談会「塔800号記念特集を語る」を聞くことができました。 その内容を踏まえて、少しだけ私の考えを書いておきます。

一首評「創」

てのひらをひらけば雨は白銅の硬貨の創を潤ませてゆく *創=きず 梶原さい子「日本人墓地」『ナラティブ』P120 ロシアに訪れた様子をつづった連作「極東ロシアへ」は、『ナラティブ』のなかでとても印象深かった一連です。 梶原さんの旅行の歌、私はとても…

2021年をふりかえる

2021年をふりかえってみましょう。コロナ禍の状況での暮らしが長くなり、マスクや消毒のある生活がすっかり日常になってしまいましたね。今のところ、私や家族はなんとか健康に暮らせていて、ありがたいことです。 今年をふりかえるとき、私にとってとても大…

黒瀬珂瀾『ひかりの針がうたふ』

短歌結社・未来の選者をつとめる黒瀬氏の第四歌集。 第三歌集『蓮喰ひ人の日記』から続けて読んでみて、英国、日本の九州と居所を変えつつ、進んでいく人生の断片を描いています。 格調高い、やや硬質な雰囲気の文体でつづられるのは、日常のなかの家族の姿…

『COCOON』21号

コスモス短歌会の同人誌「コクーン21号」からいくつか紹介します。ご紹介が少し遅くなって申し訳ないです。