波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

2017-05-01から1ヶ月間の記事一覧

塔2017年5月号 5

モアイ像のすすり泣くがに稀勢の里壁に向かひて肩を震はす 坪井 睦彦 168 たぶんテレビ画像を見て詠んでいると思うのですが、「モアイ像のすすり泣くがに」という比喩によって映像をそのまま写したような歌にならずに仕上がっています。「モアイ像」という意…

塔2017年5月号 4

おだやかに春につひえる愛憎に名前をつけておけば良かつた 濱松 哲朗 98 「春」に終わっていくのは、たぶん春が別れの季節でもあるためだと思います。愛情ではなく、「愛憎」という点がいいと思います。たしかに激しい感情であったはずなのに、名前さえ与え…

塔2017年5月号 3

正しさを愛する者らのつめたさの もう捨てましょう出涸らしのお茶 小川 ちとせ 72 正しさは強いけれど、ときとして冷たい。正しいことを言っている人たちは意見が違うものに対して、ときとして冷たい。っていうことを主体はたぶん、わかっているのでしょう。…

塔2017年5月号 2

陽をあびてしまいにはずり落ちてゆく雪そのものの白い激しさ 荻原 伸 28 屋根に残っていた雪でしょうけど、けっこうな量だったのでしょう。どさっと落ちていくときの雪の重みに注目しています。降っているときの軽やかさとは全く違う状態をあえて意識してみ…

塔2017年5月号 1

最近、塔の会員がそれぞれのブログやSNSで気に入った短歌を塔誌上から選んで紹介していることが多いですね。お互いにがんばっていきましょう。では月集から。 雪の街に傘をひらけばあたたかく傘の中には青空がある 栗木 京子 3 下の句がとても惹かれる一首で…

一首評 「バス」

きみに逢う以前のぼくに遭いたくて海へのバスに揺られていたり 永田和宏 「海へ」『メビウスの地平』 難解な歌も多い『メビウスの地平』のなかではかなり素直な詠みぶりだと思います。ある一人に出会ったことで人生が大きく決定されて以前・以後にはっきりと…

一首評 「舌」

ああ、雪 と出す舌にのる古都の夜をせんねんかけて降るきらら片 光森裕樹 『山椒魚が飛んだ日』 学生時代を過した京都を詠んだ一連のなかの一首です。「ああ、雪 と出す舌に」となっていて一字空けがあることですこし間が生まれて時間の操り方が巧みな初句に…

光森裕樹 『山椒魚が飛んだ日』

光森さんの第三歌集。赤い表紙が印象的です。結婚を機に石垣島に移住した作者。今までとは違う環境での暮らしや子供の誕生が歌集全体を通して描かれています。 ■沖縄への移住 蝶つがひ郵便受けに錆をればぎぎぎと鳴らし羽ばたかせたり みづのなかで聞こえる…

一首評 「楽器」

小夜しぐれやむまでを待つ楽器屋に楽器を鎧ふ闇ならびをり 光森裕樹 『山椒魚が飛んだ日』 雨宿りをしているのか、楽器屋の前で過ごしている時間のこと。楽器屋のなかを見て楽器ではなく「楽器を鎧ふ闇」に注目するあたり、感覚の鋭さを思います。「鎧ふ」と…