波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

2017-04-01から1ヶ月間の記事一覧

一首評 「金貨」

金貨のごときクロークの札受け取りぬトレンチコートを質草として 光森裕樹『山椒魚が飛んだ日』 トレンチコートをクロークに預けるときに質屋に預ける品物を指す「質草」とは面白い表現です。クロークの札が「金貨」を思わせるものだったことからの連想でし…

塔2017年4月号 5

ここがもう境界なのだ 花花に埋もれし君のほほえみ固し 佐々木 美由喜 168 初句と二句では何のことかわからないのですがそのあとでだれか亡くなった人がいるのだ、とわかります。相手は固いほほえみで花に埋もれている。生きているものとすでに死んだものと…

塔2017年4月号 4

同僚に勝手にしろと言うた日は猫のポーズがうまくできない 山名 聡美 126 そうか、同僚にそう言ったか・・・・・明日からちょっと心配ですね。「言うた日」という言葉が印象的で言ってしもうた、みたいな感じが出ています。「猫のポーズ」はヨガのポーズだと…

塔2017年4月号 3

スーパームーン、バームクーヘン長音は耳からひとを幸せにする 福西 直美 77 なるほどなぁ、という感じで楽しく読みました。「長音」をたくさん含んだ名詞の楽しさを「耳から」幸せにつながる、とした点がとても面白い。誰かが発した音声を聞いていて月の美…

塔2017年4月号 2

作品1から引いていきます。 バスが来るまでの時間はバスを待つ大きな鞄のひとつ後ろに 荻原 伸 27 「バスが来るまでの時間はバスを待つ」とは当たり前なのですがけっこう長い時間待つ必要があるのかな、とも思います。バス停で並んでいるときに前の人が「大…

塔2017年4月号 1

・・・ブログの更新が止まってますな。いかんなぁ。では塔2017年4月号の月集から。 死を悼むは因縁浅きひとばかりさざなみのまぶしくて目を閉づ 綺麗ごとでなきことは言つてはならぬこと汝が悪はひそかに善に用ゐよ 真中 朋久 3 真中さんの歌から2首。誰かの…

塔2017年3月号 5

塔3月号はこれで終わり。若葉集から。 チェロに掛けた指がかすかに寒さうな音楽会の案内とどく 岡部 かずみ P168 「音楽会の案内」を見ていて「指がかすかに寒さう」と気づく。演奏者の写真が使われているのかなと思うのですが指の様子が微かな震えを思わせ…

塔2017年3月号 4

水槽のタイルの目地が揺らぎゐて豆腐屋の手が絹こしをすくふ 清水 良郎 P138 昔ながらの豆腐屋さんで、きぬこし豆腐を買っているところ。たしかにタイルの水槽になっていたな、と思います。「タイルの目地が揺らぎゐて」という水のなかの揺れを丁寧に描いて…

塔2017年3月号 3

人参の皮のあたりにある夢がスープのいろを濃くしておりぬ 澤端 節子 P67 スープの中で柔らかくなっている人参、「皮のあたりにある夢」というとらえ方が面白い。たぶん皮は剥かれていると思うのだけど人参に「夢」が残っていてスープの色に反映されている、…