波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

2016-09-01から1ヶ月間の記事一覧

一首評 「釦」

死ぬ朝のさいごの釦も自らのちからに嵌めたし 白きくちなし 福西 直美 「塔 2016年9月号」 福西直美さんも塔のなかで注目している方の一人。 今回はこの一首がとてもいいなと思いました。 いつか必ずやってくる死、その日の朝の「さいごの釦」を自分ではめた…

一首評 「萼」

子の目より紫陽花の萼大きくて子の目にどつと青があふれる 澤村 斉美 「塔 2016年9月号」 紫陽花の萼のほうが、小さなお子さんの目より大きい。大きさの対比からくる幼い子供へのまなざしが印象的な歌です。 まだ小さな子は今見ている紫陽花のこともその青い…

池内 紀 『文学の見本帖』

『文学の見本帖』という書籍が面白かったので、 ちょっとだけ感想をあげておきます。 司馬遼太郎や松本清張など、 著名な作家の作品とその背景について書かれていて、 ちょっとした読書案内にもなりそうな本でした。 歌人からは岡本かの子、寺山修司、若山牧…

一首評 「雨」

錆びついた窓から見える風景だ どうしたらいいどうしたら雨 吉川 宏志 「縦長の絵」『鳥の見しもの』 今回ももうひとつ、雨で終わる歌。 すぐ前に磔刑の絵の歌がおかれているせいかこの歌も切羽詰まった感覚で読んでしまいます。 「錆びついた窓」のむこうの…

一首評 「雨」

やわらかき部分を突いてくることばそれだけならばよいけれど雨 吉野 裕之「葡萄のような」 『砂丘の魚』 たぶん他者からいわれた言葉、自分の「やわらかき部分」を突いてくるだけでなくじわじわ浸食してくるようなダメージをもたらしてくるんだろう。そのじ…