波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

2016-08-01から1ヶ月間の記事一覧

吉川宏志 『読みと他者』

今回は吉川宏志氏の『読みと他者』を取り上げます。この本は2009年から2014年にかけて発表された時評や評論をまとめた本で時評の1回あたりの分量は短めで読みやすい本です。ただ内容は短歌の読み、そして原発事故、自分と他者の関わりなど非常に難しい問題を…

一首評 「坂」

あさがほの一大群落這ひのぼるおらんだ坂に再たあひませう 紀野 恵 『La Vacanza』 「おらんだ坂」という地名がノスタルジックで惹かれる名前です。(・・・この地名は長崎ですよね、たぶん。 神戸にも北野オランダ坂ってあるけど) 「這ひのぼる」という動…

一首評 「庭」

裕子さんの庭かとおもふ塵取りとバケツ灼けゐるよその庭のぞく 小島 ゆかり 『純白光』 8月12日は河野裕子さんの命日でした。この歌は2012年の短歌日記として連載されていたもので8月12日の日付のページにおかれています。 亡くなった人のことは死後にもちょ…

一首評 「茄子」

人老いて茄子はしづけき八月の紺をささげてゐたるふるさと 高野 公彦 「住」『淡青』 茄子はつややかな光をおびて茄子紺といわれる深みのある色となって実る。 「紺をささげてゐたる」という表現が茄子の色やフォルムを鮮やかに思い浮かべさせてくれる。 だ…