波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

2016-07-01から1ヶ月間の記事一覧

一首評 「野心」

野心とは野のこころなれ夕ぞらのうつくしきまでを草のうへに寝て 真中 朋久 「塔 2016年7月号」 野心って本来はもっとギラギラしたものだけれどこの一首では「野のこころ」と分解して別の視点を与えています。ユーモアがあって面白い発想です。 「野のこころ…

一首評 「葉書」

葉書とは小さな紙と思うかなそこに余白を置いてあなたは 「ゆっくり私」『砂丘の魚』 吉野 裕之 相手から受け取った葉書だろう。 葉書をわざわざ「小さな紙」と言い直すことで質感や手触りが浮かんでくる効果があるのかもしれない。 簡潔な文章や挨拶が描か…

一首評 「和音」

天気雨一刷毛降りてメシアンの和音のごとく濃き虹は顕つ 大井 学 「カントの週末」『サンクチュアリ』 漢字の多い初句、二句から三句のカタカナによる人名へのつなぎが面白いなと思って気になりました。虹の色の調和を「メシアンの和音のごとく」とは美しい…

一首評「糖」

傷をもつ林檎は傷を癒やすべくたたかひて内に糖を増すとぞ 柏崎 驍二 「アスペルギルス・オリゼ」『北窓集』 林檎のなかの糖をとらえた一首。 「癒やすべくたたかひて」とは、矛盾したようでいて面白い表現だ。癒やすべく休むとかではなくて、「たたかひて」…

一首評「山査子」

長く暗き序章にゆれる山査子の茂みにともるような白い花 山下 泉 「塔 2016年6月号」 6月号の山下泉さんの詠草、とてもよかったなと思います。 取り上げた歌のなかでは、「長く暗き序章」という不吉なはじまりのなかで揺れている山査子の白い花を描いていま…

一首評「波」

夕光に離れて白き波があり死ののちも画家はその波を見る *夕光=ゆうかげ 吉川 宏志「塔 2016年6月号」 「モネの絵に」というタイトルがついた一連のなかに並んでいる歌です。絵画などの芸術をテーマに詠むとあまりうまくいかないケースもあるのですが、さ…

一首評「豆腐」

知っていて知らないふりをすることの、豆腐の春は白くて甘い 松村 正直 「塔 2016年6月号」 塔6月号の中から目に留まった歌をいくつか取り上げていきます。 松村さんの歌集を読んでいると3句目に「の、」という区切りを入れる方法をたまに見かけます。面白い…