波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

2016-05-01から1ヶ月間の記事一覧

一首評「扉」

ほのぐらき靴はき帰りゆく君の二つめの扉の鍵をください *扉=と 江戸雪 「色のない海」『江戸雪集』 「二つめの扉」とは面白い表現で、ひとつめが自分のためには存在していないことが分かっているんだろう、と読んだ。 上の句が「くつ・はき・かえり・ゆく…

塔2016年5月号の感想

5月号の塔には評論「五年目の諸相―東日本大震災から五年の歌を読む」が載っています。東日本大震災を詠んだ短歌を5年という時間を軸にして梶原さい子さんが論じています。 5年、とは短いようで一区切りついてしまう年月の単位です。なにも解決はされないけれ…

一首評 「鵯」

花の裏、花のおもてと縫うように鵯は桜の木を出入りする *鵯=ひよ 吉川 宏志 「塔 2016年5月号」 鵯が花の間をせわしなく動いているようすを「花の裏、花のおもてと縫うように」と描写しているのが目に留まりました。縫う、という動詞のおかげで一連の動き…

一首評「蜜」

夏の水玻璃にあふれてあふことの希れなる人に蜜を手渡す 紀野 恵 『La Vacanza』 暑くなってきました。つい涼しそうな歌を選んでしまう・・・。 グラスに注いだ水があふれてしまった光景からめったに会えない人に「蜜」を手渡すという動作につながります。こ…

京大短歌22号 その2

前回に引き続き、ゆるゆる感想です。「京都歌枕マップ」では京都の地名にかかわりの深い歌をピックアップして該当の場所と一緒に紹介しているのがとても面白かったです。小さいけどきちんと写真も入っていて、イメージを持ちやすいですね。 京都にはたくさん…

京大短歌22号 その1

相変わらず大充実の同人誌です。短歌、評論、京都歌枕マップなどどれも読み応えありました。2回くらいに分けてゆるゆると感想など書いておきます。 止んで知る雨降ることの優しさをまた忘れては夕暮れる冬 朝比奈 新一 昼の雪に花ふる名前あたえつつあなたの…

紀野 恵 『La Vacanza』

幻想的で美しい雰囲気を持つ紀野恵さんの短歌の世界はとても惹かれます。 『La Vacanza』は表紙をひらくと、トランクのイラストがあります。歌集タイトルから察することができるように休暇をイメージした世界が広がっています。 単に違うエリアや国に行くの…

一首評「目」

鶺鴒よ あなたを涙を纏うべくうつくしい目にまた還ろうか 小林 朗人 「帰蝶」『京大短歌22号』 難解だけれど美しい一連だな、と思いながら読んでいました。全体的に別れ、喪失がモチーフになっているようです。 初句で「鶺鴒」という小さな鳥に呼びかけてか…