波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

2016-03-01から1ヶ月間の記事一覧

一首評 「素手」

情報の手袋を脱ぎあたたかい素手でわたしにさはつてさはつて 小島ゆかり『泥と青葉』 「情報の手袋」という表現にはいろいろ考えてしまう。 圧倒的なデータや流れては消えるニュースに関わってきた人の手かもしれないし、思い込みやつまらないうわさや刷り込…

永田 淳 『たつぷりと真水を抱きて』

2010年に亡くなった河野裕子さんの息子である永田淳さんによる評伝。自分の母親の評伝ってエピソードには事欠かないけど心理的な距離をとりにくくて書きにくい部分もあるとは思います。かなり分厚い書籍ですが、面白いので一気に読めました。今回はあっさり…

一首評 「辛夷」

不意に咲く辛夷はいつも まっすぐな道の両側すべてが辛夷 永田 淳 『湖をさがす』 2011年短歌日記の4月5日の日付に記されている歌です。 辛夷が咲くのは3月半ばから4月半ばなので、ちょうどいまくらいの時期ですね。たくさんの小さな手が天にむかってだんだ…

一首評 「閃光」

視界内降水しづかに閃光は見ゆいくたびも国はほろびむ 真中 朋久「落葉の匂ひ」 塔 2016年3月号 「視界内降水」は視界内で雨は降っているものの、観測者がいる場所では雨が降っていない状態をさす気象用語だそうです。自分がいる場所では降っていない雨が遠…

大辻隆弘 『大辻隆弘集』

今回は大辻隆弘氏の初期歌集をまとめた『大辻隆弘集』を取り上げましょう。 ■植物とそこから広がるイメージ あぢさゐにさびしき紺をそそぎゐる直立の雨、そのかぐはしさ ゆふがほは寂しき白をほどきゐつ夕闇緊むるそのひとところ *寂しき=しづけき 幹つた…

一首評 「水鳥」

失ひてのちに来る雪 幾千の水鳥の発つうみをおもひき 中山 明『ラスト・トレイン』 喪失のあとに降ってくる雪と水面から飛び立っていくたくさんの水鳥のイメージが鮮やかに交差します。 空からの雪が、白さを保ったまま水鳥に変わって飛びたっていくような映…

一首評 「飲料」

管理下に生くるかなしみなだめつつ水より淡き飲料をのむ *淡き=あはき 江畑 實 『江畑實集』 会社や組織に所属して働くようになると働いている間、時間も行動も管理されるようになる。そのうち思考も組織の枠内に固まっていくのだろうということも容易に想…

横山 未来子 『午後の蝶』

今回は『午後の蝶』を取り上げてみます。 ふらんす堂の短歌日記2014をまとめた本です。装丁やサイズがかわいくて、このシリーズは大好きです。 ■小さなものへの視点 わが影のかぶされるとき三匹の冬の金魚のとろりと浮き来 愛づるのみにてつかはぬ硯あるとい…