波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

2015-08-01から1ヶ月間の記事一覧

河野裕子・永田和宏 「たとへば君」

河野裕子さんはとても著名な歌人ですが、2010年に乳がんのために他界されています。 具体的な闘病の様子については、ほかの著作により詳しく書かれています。 「たとへば君」では、ご夫婦の最初の出会いのころや結婚した後の生活、子供の誕生、アメリカでの…

角川「短歌」 9月号

今回も公募短歌館で2首採用していただきました。 秀逸 (伊藤一彦 選) 栞紐ぬきとるごとくなやみごと言ってしまえば空とは表紙 佳作 (秋葉四郎 選) おもいでは頁のすみから零れおちだれかのために余白をあける これはたしか「葉ね文庫」さんに行った後に…

「エフライムの岸」と旧約聖書

ちょっとおまけで記事を追加です。歌集のタイトルになっている「エフライムの岸」は旧約聖書に出てくる『士師記』のなかのシーンにちなんでいるそうです。 シイボレト(つぎ)シイボレト(言つてみよ)シイボレト(ゆけ)シボレト(ゐたぞ) 真中朋久『訛音…

真中朋久 「エフライムの岸」

今回は真中さんの第4歌集です。カバーのざらりとした質感が印象的。 ■死と死に至るまでの歌 生者死者いづれとも遠くへだたりてひとりの酒に動悸してをり 冬のグラスに色うつくしき酒をそそぎふるき死者あたらしき死者をとぶらふ 死の間際に受け入れる罪サン…

一首評 「フォーク」

正しさって遠い響きだ ムニエルは切れる、フォークの銀の重さに 千種創一 「keep right」 2年前の塔新人賞の受賞作。すごく好きで何度も読んだ作品でした。シリア内戦をベースに組み立てられた連作で、そのなかのひりひりした空気が印象的でした。 「正しさ…

一首評 「新蝉」

恋ひ恋ひて損はれゆくわたくしと新蝉の羽根に降る朝の霧 米川千嘉子 「夏樫の素描」 *蝉は本当は旧字ですが環境依存文字なので代用しています。最近読んでいた「米川千嘉子歌集」から。相手を思う気持ちが強すぎるのか、どこか欠落していく「わたくし」とま…

一首評 「バラ」

贈りたきわたしのバラの四、五本のわたしを除いた部分を贈る 渡辺 松男 「まぶたと息と桑の実のジャム」 今回は角川「短歌」8月号の巻頭作品から。「わたしのバラ」というと自分の庭で育てたバラみたいなイメージがあるんですけどね、贈るにあたってわざわざ…