波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

塔2018年2月号 3

やりたいと思ふことよりやりたくはないことばかり 特急通過    濱松 哲朗  P59

駅で電車を待っているシーンかな、と思います。

やりたいことよりも

やりたくないことのほうが心のなかで

比重を増している。

どんよりした感じに占められていて

鬱屈した感じが主体自身も耐えがたいのでしょう。

一字空けて結句で

目の前を特急電車が通過していくことを詠むことで

自身の内面とは全く無関係に進んでいく世界を提示しています。

普通電車とかではなくて、

スピード感のある「特急」だから

余計に世界から取り残された感が出ています。

茶話会で「概念」などと口にして白けた感じ 茶を足してみる     与儀 典子  P69

お茶を飲む場で、つい固い話をしてしまったようです。

きっと周囲とは雰囲気が合わず、

なんとなく白けた雰囲気になって、

気まずい感じになったのでしょう。

その場をごまかすために、

あるいは取り繕うために、

「茶を足してみる」という動きを加えることで

そのときの場の空気感が伝わります。

おだやかな冬望みつつ鍋のなかカラメルソースを霧にからめる   木村 珊瑚  P79

自家製プリンを作るとか、

鍋でカラメルソースを作っているシーンでしょう。

「霧にからめる」という点が

ちょっと不思議な点です。

「霧」と表現しているのは鍋の中の湯気ではないかな、と思いつつ

鍋のなかにもう一つの小さな世界があるようです。

ねむたさについて書こうと開いたらねむたさについて書いてある手帳    紫野 春 P100

疲れているのか、手帳に書きとめようとした

「ねむたさ」はすでに過去の主体がもう書いていた、という歌。

いつ書いたのか、それすらはっきりしないのかもしれない。

今日だけでなく、前から疲れや眠さを感じて

引きずっているのでしょう。

手帳というおそらく自分しか見ないだろうアイテムの

閉じられた世界のなかで

何度もおなじ疲れをループしているみたい。