波と手紙

小田桐 夕のブログ。塔短歌会に所属しています。         ゆふぐれはあなたのなかに沈みゆくとほき国だと気づいてしまふ

塔2018年1月号 3

鏡台に食ってかかるごと顔寄せてわかくさの妻が紅ひいている    垣野 俊一郎      P72

とても面白い歌です。毎日のように見ている妻の仕草を

いきいきと描いていて、迫力があります。

「わかくさの」は「妻」にかかる枕詞。

「鏡台に食ってかかるごと顔寄せて」という姿勢の面白さと

「わかくさの」というみずみずしいイメージを含んだ枕詞の

組み合わせがよりギャップを生んでいます。

ゆるやかに曲がる水路の先に立つ鉄塔は今秋を束ねて    中本 久美子   P73

奥行きのある景色が美しい歌です。

ゆるやかな水路、その先の鉄塔、

秋の空気感、絵のような広がりです。

「鉄塔」という冷たい印象のある建造物が

ゆったりした歌のなかでポイントになっていると思います。

「秋を束ねて」は少し迷いますが

高くなっている秋の空に鉄塔がそびえていて

空を刺している感じかもしれません。

秋の日射しがあなたの背を高くして何の話をはじめましょうか  *背=せい  

               中田 明子   P100

夏とは違う、秋の日射し。

「あなたの背を高くして」に

めぐる季節のなかで「あなた」がちょっと変わっていく感じがします。

下の句の問いかけがとても素朴でおおらか。

あまり定まりのない

ゆるやかな会話ができる相手なんだろう、と思えて

その時間の流れがとてもきれい。

はだかよりはだしのほうが裸だな ちいさな爪から目が離せない    小松 岬  P104

幼いお子さんのことかな、と思うのですが

上の句の着眼点がとてもいいなと思います。

はだしでちょこちょこ歩いている幼い子供を見ていて

「はだしのほうが裸」。

ぷにぷにしていて、ちょっと危うくて

確かにそうかも、という説得力があります。

見守っている大人の視点でありながら

観察や気づき、愛しさなどが

力みなく詠まれています。

自販機は予報通りの雨にぬれ下一列のhotになれり   村上 春枝     P116

自販機にも季節の変化はやってきます。

この歌のなかの雨は、

秋のはじめの冷たい雨なのでしょう。

天気予報通りの雨、

秋になると変わる缶ジュースの温度、

いつも通りのことなんだけど

「下一列のhot」という切りとり方が面白い。

ささやかな季節の変化の表れを

ポイントを作って切りとっています。

これもまた定点のひとつつりざおを流れにかざす男のおりぬ   丸山 隆子   P117

「定点」は定まった位置の点。一定の場所とか地点を指します。

釣りをしている男性の様子を

観察している眼はとても冷静。

その季節になるときまって釣りを楽しむ人が

やってくるスポットなのかな、と思います。

主体はあくまでその様子を見ているだけで、

対象との距離を感じます。

川の流れという動きに対して

釣り人がしずかに糸を垂らす様子から

「定点」を見出したことが印象的です。