波と手紙

小田桐 夕のブログ。塔短歌会に所属しています。         ゆふぐれはあなたのなかに沈みゆくとほき国だと気づいてしまふ

塔2018年1月号 1

「塔」の表紙は半年ごとに変わります。

今回もおしゃれで素敵。

今年もなんとか「塔」の歌をいろいろ紹介できるといいな。

曼珠沙華見なかったといえば嘘になるしかし曠野はずっと続いた   *曠野=あれの

          吉川 宏志  P6

「見なかったといえば嘘になる」という展開が

思わせぶりな言い方です。

曼珠沙華を見たことは見たのでしょうけど、

なんだかおぼつかない記憶なのかもしれない。

あるいは見たことを認めたくないのかもしれない。

曠野は荒野のことかな、と思いますが。

現実なのか、夢なのか、いまひとつはっきりしないような

浮遊感があります。

死んでゐて当然とふが二度ありき一度は言へて一度は言へぬ    永田 和宏   P6

死んでいたかもしれない経験が二度あるという。

そのうちの一度は、他人に言うわけにいかないのでしょう。

経験のなかに、他人に言えることと言えないことが誰にでもあります。

言えない部分があるとは思いつつ、

たまにその言えない部分からくる影とか深みみたいなものも

感じることがあります。

蜜を吸ひ終へて花より出でしとき蜂は方位をしばしうしなふ    栗木 京子  P7

花のなかにうもれてしばし蜜を吸っていた蜂、

花の内側から出てくる時、

世界はどう見えているんだろう、と思います。

「方位をしばしうしなふ」で

暖かい陽気のなかのうっとりとした感じを受けます。

宵闇の 愛しきれるか はららけた朝顔の蔓かすかにゆれて    江戸 雪   P8

二回ある一字空けがとても鮮烈。

一字空けにはさまれた二句目は、初句と三句の間に挿入されたものだと解釈しました。

字空けを効果的に使うのはけっこう難しいと思いますが。

「宵闇」という夕方の薄暗い時間帯と

頼りない「朝顔の蔓」の様子の間にさしはさまれた

「愛しきれるか」という問いかけ。

二句目の強さが迫ってきて、自分に向かっての問いだと思いました。

率直な問いであるだけに、厳しさを伴います。

この夕べ支へて呉るる人が欲し否、否、光るしやもじが欲しい    松木 乃り  P17

素直な心情から始まったと思ったら、すぐに否定してしまいます。

「否、否、」という強い否定のしかたが強烈です。

しかも代わりに「光るしやもじが欲しい」。

毎回のご飯をよそうしゃもじはなじみのあるアイテムでしょう。

しかし光るというのは、どういうことだろう。

なにかにすがりたいような切羽詰まった感じがあって

気になる歌です。