波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

塔2017年12月号 5

はかなごと繰り返しつつ来し生のリンスインシャンプーのごはごは    山下 好美   P191

上の句で今までの人生の様子、

下の句で日常生活の中で使うアイテムの話につなげています。

「ごはごは」はリンスインシャンプーで洗った後の

髪の質感だと思うのですが、

今までの人生のあり様を思わせます。

ごわついた髪の質感のような人生であるのかもしれないけど

軽めに詠んでいて、おもしろい雰囲気があります。

いつも食べ残すパセリが今日はないことをかなしむごとき純真     神山 倶生   P192

全てが結句の「純真」にかかっていく比喩になっていて

私はこういう長めの比喩もあってもいいと思っています。

(私が同じような方法を使って「長すぎる」って批判されたことがあるんだよ)

サンドイッチ等のかたすみに添えられることがあるパセリ、

いつもはあるのに、今日はないんだ、とちょっと寂しい。

小さな欠落に気づく感覚、それを気にする感覚。

日常の一コマを比喩にして内面の繊細さを詠んでいるので、

ちょっとした可笑しさも含んでいます。

心臓と小指は遠く繋がってぎゅっとされたらぎゅっとなります   中森 舞  P195

下の句の表現が面白いな、と思います。

小指をふくめ、手をぎゅっと握られたのだろう。

そのときの緊張を

「ぎゅっとされたらぎゅっとなります」としている点が面白い。

下の句に省略がありながら、シーンやそのときの気持ちが

しっかりつたわる歌になっています。

雨の日に猫の後頭部を嗅げば湿り気を帯びた我が家の匂ひす   三好 くに子  P198

一緒に暮らしてきた飼い猫、

猫の後頭部の匂いをかいだはずなんだけど、

それは同時に「湿り気を帯びた我が家の匂ひ」でもある。

飼っているペットがもうすっかり我が家になじんでいることや

それまでの時間の経過を思わせます。