波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

塔2017年9月号 5

やっと終わるよー。

なんか9月号は手間取った。

めずらしく君が怒鳴った夜だった私の中の水を揺らして     魚谷 真梨子     P154

夫か恋人か、ケンカして相手に怒鳴られたのだろう。

ふだんはめったに怒らない性格の人なのだろうから

怒鳴られたときのショックはかなりのものだったはず。

「私の中の水を揺らして」で

身体を深く揺さぶられた感覚が分かる。

古き家こはされゆきてむき出しの風呂の蛇口に石鹸揺れぬ   川田 果弧  P154

空き家や古い家が解体されていく様子を詠んだ

歌はいくつか見たことがあるけど、

この歌では家の中からむき出しになった

「風呂の蛇口に石鹸」という点に注目している。

かつてはたしかにそこに誰かの暮らしがあったという事実が

そんな微細な物の描写からはっきりと想像される。

着眼点がいい作者だな、といつも思う。

あたらしくなるため何度も息を吸うなんど吸ってもここは雨間     *雨間=あまあい      加瀬 はる    P155

こちらも独自の視点や発想が面白い方。

自分自身のなかをクリアにしたくて息を吸っているけど

なんど吸っても思うようにはならない、と思っているのかも。

大きく吸い込んで入ってくるのは

雨間のじめっとした空気。

呼吸という生きていくために欠かせない行為のなかに

願望とか諦念とかが混在している。