波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

塔2017年8月号 5

ふたひらの羽があるから蝶々は自由なのだと思い込んでた    八木 佐織     P160

蝶々の軽やかさから思い込んでいた自由だけど

そうでないと気づくことがあったのでしょう。

蝶々のことを詠んでいながら、

主体の内面を見つめなおす歌になっています。

僕たちが存在すると云ふ事の意義を問ふため咲けアマリリス    宮本 背水  P161

ちょっと硬い感じもするのですが

「咲けアマリリス」という強めの結句に惹かれます。

マリリスは主張の強い色やフォルムをしています。

花に問われる存在意義というのは

どれほどのものなのか、

「咲け」という命令形が出てくる背後には

案外もろい部分があるように思うのです。

もう逢はぬひとの名前と同じ文字エンドロールに流されてゆく    川田 果弧  P169

映画の最後に流れていくエンドロールに見つけた

「もう逢はぬひとの名前」。

まさにその人物なのか、同姓同名なのかで

歌の味わいがけっこう変わります。

かつて大事だったかもしれないその人の名前を

「同じ文字」としたところに年月の経過があります。