波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評 「楽器」

小夜しぐれやむまでを待つ楽器屋に楽器を鎧ふ闇ならびをり
             光森裕樹 『山椒魚が飛んだ日』

雨宿りをしているのか、楽器屋の前で
過ごしている時間のこと。
楽器屋のなかを見て
楽器ではなく「楽器を鎧ふ闇」に注目するあたり、
感覚の鋭さを思います。
「鎧ふ」という動詞の強さが印象的で
硬質な楽器の周りの空気をつかまえています。
美しい曲線や艶をもつ楽器は
闇によって周りとの覆いを作っている、
静寂だけど鋭いイメージが立ち上がります。