波と手紙

小田桐 夕のブログ。塔短歌会に所属しています。         ゆふぐれはあなたのなかに沈みゆくとほき国だと気づいてしまふ

塔2017年3月号 3

人参の皮のあたりにある夢がスープのいろを濃くしておりぬ     澤端 節子   P67

スープの中で柔らかくなっている人参、
「皮のあたりにある夢」というとらえ方が面白い。
たぶん皮は剥かれていると思うのだけど
人参に「夢」が残っていてスープの色に
反映されている、というと
ちょっとおろそかに飲めない気がします。

待てばいい花のある部屋は眩しくてもうどんな事にも傷つかない    福田 恭子   P98

「もうどんな事にも傷つかない」は
強くなった、というよりも
すでになにか深いダメージを負ってしまって
感覚がマヒしたせいではないだろうか、と思います。
「もう」という2文字が入っていることで
とても強い決意を感じさせます。
その一方で、「花」といういつかはしおれて枯れていく
存在があることで、その決意の脆さをも感じます。
「待てばいい」では何を、誰を待っているのか
「花のある部屋」がどこなのか
わからないけど近寄りがたい眩しさとの対峙
だと受け取りました。

菊のかたちに花火開きてそのけむり菊のかたちのまま流れゆく     加茂 直樹   P114

花火のかたちが「菊」というと
幾筋もの線状の花火だったのかな、と思います。
この歌のなかでは花火そのものよりも
花火にともなう煙のかたちに
より注目しています。
無常な一瞬を描いています。

町名がここより変はる自転車をよけつつ冬の橋を渡れば     森永 絹子   P125

橋から先は別の名前を持つ町。
「自転車をよけつつ」という実感のある描写がいいな、と思います。
まだ寒い冬の空気のなかを歩いて
別の空間に入っていく途中の描写を
丁寧に描いています。
「橋」というつなぎ目としての場所も面白くて
橋のフォルムと移動の途中にいるというイメージが
合っています。