波と手紙

小田桐 夕のブログ。塔短歌会に所属しています。         ゆふぐれはあなたのなかに沈みゆくとほき国だと気づいてしまふ

塔2017年3月号 2

塔3月号の作品1から。

沈黙が答ではないあとすこし言葉澄むまで待つ冬隣      石井 夢津子    P23

沈黙している時間は考えている時間。
「言葉澄むまで待つ」で自己の中の気持ちを
しずかに見つめている主体なのだろう、と思います。
「冬隣」という冬の訪れを感じさせる語も効果的で
空気の澄んでいく様と結びついています。

薄き鬢さむくあらぬか五千円札のをみなに鰤を買ふなり     清水 弘子     P27

「五千円札のをみな」は樋口一葉
短い生涯を終えた一葉の「薄き鬢」への着目が面白い一首です。
手元の五千円札から助詞「に」で
鰤を買うシーンにつなげています。
「に」は「によって」という意味だと思いますが
すこし強引な使い方で
結句の動作に落とし込んでいます。

次次にうどん屋できて客足のしばらく乱れまた治まりぬ      橋本 成子     P30

新店舗がオープンすると、新しい店に行くお客さんが増えるけど、
しばらくするとそれぞれのお気に入りの店が定まって
また客足が落ち着くという期間をコンパクトに収めています。

うつくしく生きる/死ぬ 吾の本名の美の字は線対称に書かれる     沼尻 つた子    P38

沼尻さんの詠草は全体を通して
しっかりしたテーマを毎回持っているように思います。
今回は塔の会員で他界された方を
しのんで詠まれた歌のなかの一首です。
他者の死を聞いて、いつか自分にもやってくる
死を意識せざるを得ないときがあります。
本名のなかにある「美」という字の
フォルムの美しさに触れながら
果たして「うつくしく生きる/死ぬ」ができるかどうか
自問自答したのではないでしょうか。

レシートにユキの表示あり小麦粉の「雪」と分かるまでの数分          上大迫 チエ  P43

レシートを見ているといろんな発見があります。
この歌のなかでは「ユキ」という表示から
「?」と思ってから具体的な商品に思い当たるまでの
数分間を詠んでいます。
小麦粉の「雪」は日清フーズの小麦粉ですね。
この歌に詠まれているのは
日常のとても些末なことなのだけど
些末なことが十分面白い作品になるのが
短歌の興味深い点です。

萩に雪 ここを遠くに目覚めたるきみのひとりを大切にする     山内 頌子    P49

初句切れで大胆に景色を提示してから
心情に移る構造が潔い歌です。
「きみのひとりを大切にする」はすこし難解ですが魅力的です。
きみというひとり、なのか
きみのなかのかけがえのない部分なのか?
「ここを遠くに」だから離れているのかもしれない。
とても繊細な感覚が漂っています。