読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

波と手紙

小田桐 夕のブログ。塔短歌会に所属しています。         ゆふぐれはあなたのなかに沈みゆくとほき国だと気づいてしまふ

塔2017年2月号 4

作品2からもう少し。
2月末は暖かかった。春は近い。

山積みの書類のやうにすることがあるがあなたよ夕陽をみないか     赤嶺 こころ   P112

語順の巧さに惹かれる歌です。
忙しさはわかっているけど
「夕陽をみないか」という呼びかけをしている、
もしかしたらせざるを得ないのかもしれない。
どこか切羽詰まった感じがあります。
「あるがあなたよ」という四句目の逆接が
一首のなかでポイントになっています。

ささやかな時差を抱いたまま生きる桜咲く日が違ってもいい   *抱いた=いだいた         小松 岬      P135

私と相手の間にある小さな差。
時差ということは、タイミングが合わないのかもしれない。
「桜咲く日が違ってもいい」という表現で
違いをしなやかに受け止めている気持ちがいいですね。

切り花のつひに莟をひらかざる食卓に蒼く闇降りはじむ      加茂 直樹   P146

莟があればきれいな花が咲くことを期待してしまうけど、
この作品のなかの切り花はひらかなかった。
「蒼く闇降りはじむ」に静かな不気味さがあって
期待を裏切られたときの気持ちの具現化のようです。

ここに居ぬ誰かを思うシトロンの黄色い皮のような街の灯    福西 直美   P147

二句で切れているのかな。
いない人を思うときの欠落感と
ほんのりと明るい街の灯。
「シトロンの黄色い皮のような」という比喩がきれいで
あたたかな雰囲気を作り出しています。

 入札の終わりし業者は作業着に野の草つきしを図面で掃う   石井 久美子    P148

場面の切りとり方が的確で
特に「図面で掃う」という結句がいいですね。
入札という重要な仕事がすんだ後の動作に
なんだかその場の空気まで潜んでいる感じがします。

ひとつごとに値を負ひてコンビニのおでんは煮える秋のかたすみ     木村 珊瑚   P150

コンビニおでんは現代的なシーンです。
「ひとつごとに値を負ひて」は確かにその通り。
具材によって微妙に値段が違いますよね。
コンビニのレジ付近のおでんコーナーは
現代の「秋のかたすみ」になっています。
ちょっとしたスケッチみたいな歌ですが、
生活のワンシーンをうまく切り取っています。